こんなことで逮捕されてしまうかも?出勤・帰宅編~元弁護士が指摘!
- 2019/11/10
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目覚ましや奥さんに叩き起こされ、眠い目をこすって満員電車で出勤し、仕事や飲み会で疲れた体を引きずって帰宅する…。家族や会社のためにこのような毎日を送られている人も多いでしょう。
しかし、そのように頑張っている人たちの出勤や帰宅においても、悪意なく犯罪行為を行ってしまって逮捕されてしまう危険性は潜んでいます。
今回は、逮捕という最悪の事態に陥らないよう、出勤時や帰宅時の出来事の中で犯罪になりうるものをいくつかご紹介します。
朝電車に乗る時に…
サラリーマンのAさん(43)は大のお酒好き。昨日も夜遅くまで同僚と飲み歩いていたため、今日は完全に寝坊してしまいました。
しかも今日は朝一で役員も出席する大事な会議のある日。絶対に遅刻できません。
出勤の準備をして家を飛び出したAさんは最寄り駅まで全速力で走り、ホームに続く階段を下りている時にちょうど出勤時間にぎりぎり間に合う電車が到着しました。
しかし、ホームには電車を待っている人が長蛇の列を作っています。しかも電車は既にほぼ満員状態で、列の前の方にいる人しか乗れなさそうです。
そこで、どうしてもその電車に乗りたかったAさんは、「どいてどいて~!」と大声で叫びながら手持ちの鞄を振り回して列に割り込み、周りの人の冷たい視線を浴びながら何とかその電車に乗ったのでした。
【どんな罪になるの?】
Aさんの行為は軽犯罪法1条13号に該当する可能性があります。
【軽犯罪法とは】
軽犯罪法とは、罰金以上の刑で罰するほど重大ではないが、国民の日常生活の中で最低限遵守しなければならない事柄を定め、これに違反した場合には刑罰で制裁が加えられることを明示している法律です。
【軽犯罪法1条13号とは】
軽犯罪法は、第1条で軽犯罪行為を列挙しており、その13号は以下のように定めています。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十三 公共の場所において多数の人に対して著しく粗野若しくは乱暴な言動で迷惑をかけ、又は威勢を示して汽車、電車、乗合自動車、船舶その他の公共の乗物、演劇その他の催し若しくは割当物資の配給を待ち、若しくはこれらの乗物若しくは催しの切符を買い、若しくは割当物資の配給に関する証票を得るため待っている公衆の列に割り込み、若しくはその列を乱した者
長い条文ですが、問題となるのは、Aさんの行為が、条文にいう「威勢を示して…電車…を待っている公衆の列に割り込み…」に該当するかどうかです。
ここで、「威勢を示して」とは、人をおさえ、恐れさせ、その者の言うことに従わざるを得ないような状況を作り出し、もし従わなければ、又はその者の行為を阻止すれば、何らかの不利益を加えるような態度をいいます。
Aさんは、割り込みをする際、「どいてどいて~!」と大声で叫びながら持っている鞄を振り回していますから、Aさんの行為は「威勢を示して」に該当することになります。
また、「公衆の列に割り込み」とは、一般の人々によって作られた列の先頭又は途中に、列を作っている人々の意思に反して入ることをいいます。
したがって、Aさんが列を作っている人たちの同意を得て割り込んだのであれば、ここでいう「割り込み」には該当しませんが、Aさんは周囲の人の冷たい視線もお構いなしに無理やり列の途中に入っていますから、Aさんの行為は「公衆の列に割り込み」に該当します。
以上から、Aさんの行為は、軽犯罪法1条13号に該当する可能性があります。
【軽犯罪法に該当した場合の効果】
軽犯罪法1条によれば、同条に定める各号に該当した者は拘留又は科料に処せられることになります。
拘留とは、1日以上30日未満の期間拘留場に拘置されて自由を拘束される刑罰のことです。
科料とは、千円以上1万円未満の金銭を払うことを求められる刑罰のことです。
仕事後の飲み会で…
何とか朝一の会議にも間に合い、その後の仕事も順調に進んだAさん。仕事が終わった後、今日も自分へのご褒美とばかりに同僚と飲みに出かけました。
居酒屋に着き、仕事が順調に進んだことに気をよくしたAさんは大好きなビールのジョッキを次々と空にしていきます。また、気心知れた同僚と飲みに来ていることもあり、気分は最高です。完全にテンションが上がったAさんは、隣に座っていた若い女性たちに対して、「おっ、君たちかわいいね!×××が×××だし、□□□なんか□□□…。」などと、職場で女性に言えば完全にセクハラになる発言を、同僚が止めるまで大声で続けてしまったのでした。
【どんな罪になるの?】
Aさんの行為は軽犯罪法1条5号に該当する可能性があります。
【軽犯罪法1条5号とは】
軽犯罪法1条5号は、以下のとおり定めています。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
五 公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者
Aさんの行為で問題となるのは、Aさんが、条文にいう「…飲食店…において、入場者に対して、…著しく粗野…な言動で迷惑をかけた者」に該当するかどうかです。
ここで、「著しく」とは程度が高いことを意味し、「粗野」とは、荒々しく、卑しく、露骨で、礼儀又は場所柄をわきまえないことを意味します。Aさんは、飲食店という公共の場で、同僚が止めるまで卑猥な発言を大声で続けていることから、Aさんの発言は「著しく粗野」であるといえます。
また、「迷惑をかけた」ことも要件となっていることから、隣に座っていた若い女性たちがAさんの発言を迷惑と感じていなければ、Aさんの行為は本号に該当しないことになります。しかし、見ず知らずのおじさんに卑猥な発言をされた若い女性がそれを迷惑に感じないということはほとんど考えられませんので、Aさんは、「飲食店」の「入場者」である若い女性たちに迷惑をかけたことになります。
以上から、Aさんの行為は、軽犯罪法1条5号に該当する可能性があります。
また、該当した場合の刑罰は、上と同じく拘留又は科料です。
家に帰る道中で…
飲み会もお開きになり、家に帰るため歩いている途中、Aさんは咳をしてたんが出てしまいました。歩いていたところがちょうど裏道で人もいなかったことから、Aさんは、そのたんを道端に吐き捨てました。
【どんな罪になるの?】
Aさんの行為は軽犯罪法1条26号に該当する可能性があります。
【軽犯罪法1条26号とは】
軽犯罪法1条26号は、以下のとおり定めています。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十六 街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者
ここで、「街路」とは市街地の道路を意味します。市街地の道路であれば規模の大小は問われず、裏道も「街路」に当たります。したがって、Aさんがたんを吐いた場所は、裏道ではあるものの「街路」に該当します。
また、「たんつばを吐き」とは、街路など条文に定められた場所に直接たん又はつばを放出する行為をいいますので、Aさんが道端にたんを吐き捨てた行為は「たんつばを吐き」に該当します。
以上から、Aさんの行為は、軽犯罪法1条26号に該当する可能性があります。
また、該当した場合の刑罰は、上と同じく拘留又は科料です。
【まとめ】
Aさんが出勤中や帰宅中にした行為がいずれもマナー違反の行為であることは、ほぼ全ての人がおわかりになるでしょう。
しかし、Aさんがした行為は、単なるマナー違反にとどまらず犯罪行為であり、場合によっては、Aさんは逮捕されてしまう可能性もあるのです。
今後、マナー違反の行為をしたくなった時には、「もしかしたら今から自分がやろうとしている行為は犯罪行為かもしれない…。」と思い直してみてください。
そうすることで、逮捕されてしまう可能性はなくなりますし、カッコいいオヤジにもなれることでしょう。