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昼食の落とし穴!これであなたも犯罪者…。【元弁護士が指摘!】

  • 2019/09/11
  • ライフスタイル・娯楽
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  • かずまろ【元弁護士】
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テレビや新聞では連日、「〇〇容疑者が△△の容疑で逮捕された。」という報道がなされていますよね。
これらの報道を見て、ほとんどの方は、「こんなのは元々悪いこと考えている人たちがやることだから自分には関係ないよ」と思って、聞き流しているのではないでしょうか。
しかし、普段真面目に日常生活を送っている人でも、ふとしたことから意図せず犯罪行為をしてしまっていることがあるのです!
今回は、何気ない日常生活の中で、「え!こんなことが犯罪になるの?」というケースをご紹介します。

 

ケース~部下との昼食で…

ケース~部下との昼食で…
株式会社A社の営業部で課長を務めるBさん(45)は、仕事の指示が的確で部下思いであることから、部下から厚い信頼を寄せられています。
そんなBさん、午前中に商談先との取引がまとまったことから、担当していた部下たちの労をねぎらうために、少し値が張るお店に部下たちを連れて昼食に行きました。
食事も終わってお会計になり、店員さんから「合計で4千5百円です。」と言われたBさん。小遣い制なので余裕はないですが、かわいい部下たちのため、「ここは俺が出すよ。」と言って5千円札を出しました。
ところが、店員さんから返ってきたお釣りは5千5百円。どうやら店員さんは5千円札を1万円札と勘違いしているようです。
「言ったほうがいいよなあ…。でも今月は飲み会もあるし、新しいゴルフクラブも欲しいし…。まあ、相手が間違えたせいだし、悪いとは思うけど、これも仕事を頑張ってる自分へのご褒美ってことで、そのままもらっておくか。」と考えたBさんは、何も言わず5千5百円を受け取り、職場へと戻ったのでした。

 

一体どんな罪になるの?

キャッシュレス決済が増えてきたとはいえ、まだまだ支払いは現金のみという店も多く、こういったケースはままあると考えられます。
「Bさんがしたことは、確かに道義的には良くないけど、こんなことで犯罪になるの?」と思われた方も多いかもしれませんが、Bさんの行為は詐欺罪に該当する可能性があるのです!

 

詐欺罪とは?

詐欺罪とは?
詐欺罪は刑法246条に規定されています。

(詐欺)
第246条
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

条文からわかるとおり、詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合(246条1項)及び人を欺いて、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合(同条2項)に成立します。
なお、写真と実物が違うときに「詐欺だ!」と突っ込むことがありますが、詐欺罪の保護法益(詐欺を犯罪として刑法に定めることで守ろうとしている利益のことです)は個人の財産なので、単に騙しただけの場合や財産以外の利益が侵害された場合には詐欺罪は成立しません。

 

詐欺罪の成立要件とは?

詐欺罪が成立するには、人を欺く行為により相手に錯誤を起こさせ、その錯誤に基づいて相手方が物・利益を交付し、その交付行為によって物・利益が移転するという一連の因果関係をたどることが必要です。
そのため、詐欺罪が成立するには、
1.人を欺く行為(法律用語で「欺罔行為」といいます。)をすること
2.1の欺罔行為により相手方が錯誤に陥ること
3.その錯誤に基づいて相手方が財物ないし財産上の利益を交付すること
4.3の交付行為により財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること
が必要です。また、条文自体からは導き出せないのですが、判例上、
5.行為者に行為時において不法領得の意思があったと認められること
も必要とされています。

 

「成立要件1.人を欺く行為をすること」とは?

人を欺く行為とは、相手方を錯誤に陥らせて財物ないし財産上の利益を処分させるような行為のことです。例えば、返すつもりがないのに、「必ず返すから」と言ってお金や物を借りようとする行為などがこれにあたります。簡単にいえば嘘をついて相手を騙すことですね。ただ、嘘をついて相手を騙せば何でも「人を欺く行為」に該当するのかというとそうではなく、取引の相手方が真実を知っていれば財産的処分行為を行わないような重要な事実を偽った場合のみ、人を欺く行為に該当することになります。
Bさんの例でいえば、店員さんは、自分が受け取ったのが1万円札ではなく5千円札であり、正しいお釣りが5百円だと知っていれば、Bさんに5千5百円を渡すことはなかったといえますから、Bさんの行為は、人を欺く行為に該当する可能性があります。

黙っていただけのBさんも「人を欺いた」といえるの?
しかし、皆さんの中には、「Bさんは、『1万円札で支払います』と言って5千円札を渡すといったような、積極的に騙す行為は何もしていない。お釣りが多いことを黙っていただけなのに、それでも人を欺く行為になるの?」という疑問があると思います。
この点については、詐欺罪の成立には積極的に何らかの行為をすることが必要不可欠というわけではなく、すでに相手方が錯誤に陥っていることを知りながら真実を告知しない場合でも、法律上の告知義務(相手方に真実を告げる義務)が認められれば、詐欺罪が成立するとされています。
そして、法律上の告知義務ですが、個別的な取引の内容に関する重要な事実か否か、相手方の知識、経験、調査能力等の諸事情を考慮して告知義務の存否を判断すべきであるとされています。
Bさんの例でいえば、正しいお釣りがいくらなのかということは取引の内容に関する重要な事実ですし、昼食代を受け取ってお釣りを渡す行為は一瞬のことで、後から間違いがないか確認することも難しいことなどからすれば、Bさんには、信義則上、お釣りが多いことの告知義務があるといえます。
したがって、お釣りが多いことに気が付きながら黙っていたBさんの行為は、詐欺罪の成立要件である「人を欺く行為」に該当することになるのです。
実際にも、総額約1万3千円の会計に対して1万円札1枚と5千円札1枚の計1万5千円の支払った消防士の男に対して、店員が6万円を預かったと思い込み、男に約4万6千円のお釣りを渡してしまい、受け取った男がそのまま店を出たという事件がありました。その事件では、後から店側がお釣りを多く渡したことに気付いて警察に被害届を提出し、男は詐欺の疑いで逮捕されてしまいました。

 

その他の成立要件は満たすの?

「成立要件2.1の欺罔行為により相手方が錯誤に陥ること」については、Bさんが黙っていたことで、店員さんはBさんが渡したのが1万円札ではなく5千円札であること、つまりお釣りが多いことに気が付かなかったのであり、Bさんの欺罔行為により店員さんが錯誤に陥っているといえます。また、判例上、錯誤に陥ったことについて相手方に過失があった場合でもこの要件の成立は妨げられないとされています。したがって、Bさんはこの要件を満たします。
「成立要件3.その錯誤に基づいて相手方が財物ないし財産上の利益を交付すること」については、店員さんはBさんが万円札を支払ったという錯誤に基づいてBさんに5千5百円を交付していますから、Bさんはこの要件も満たします。
「成立要件4.3の交付行為により財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること」については、Bさんは店員さんから受け取った5千5百円を持ってそのまま職場に戻っていますから、Bさんはこの要件も満たします。
「成立要件5.行為者に行為時において不法領得の意思があったと認められること」については、不法領得の意思という聞きなれない言葉が出てきていますが、これは、簡単にいうと他人の物を自分の物として自由に扱おうとする意志のことです。Bさんの場合、多く受け取ったお金を飲み会代やゴルフクラブ代に使うつもりですから、Bさんにはお釣りが多いことを告げなかった時点で不法領得の意思があったと認められることになり、Bさんはこの要件も満たします。

 

まとめ

まとめ
Bさんのケースは、詐欺罪の成立要件をすべて満たしてしまいました。Bさんが何気なく行った行為は、Bさんを犯罪者にしてしまい、場合によっては逮捕されてしまうこともないとはいえません。また、起訴されて有罪となれば、条文にあるとおり法定刑は10年以下の懲役です。
これからは、いくら財布の中身がピンチでも、店員さんがお釣りを間違えていたときには、正直に「お釣りが多いですよ。」と伝えましょう!そして、小遣いを増やしてくれるよう奥さんに頼み込みましょう(結果は全く保証しませんが…)。

 

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この記事の作者

かずまろ【元弁護士】
かずまろ【元弁護士】
2010年に弁護士登録。法律事務所にて民事・家事・刑事事件など多様な業務を担当。その後、某金融機関の企業内弁護士、任期付公務員(国税審判官)を経て、現在に至っており、自営業、サラリーマン、公務員の全てを経験している。また、弁護士資格だけでなく、中小企業診断士、FP2級、簿記2級、英検2級、漢検2級、公認会計士試験合格と複数の資格を有している。現在は弁護士登録を一時的に抹消しているため、肩書きは「元弁護士」である。
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