ランニングは仲間と走る派?1人で走る派?どっちがいいのか?

  • 2019/09/02
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  • 角谷 剛【スポーツトレーナー】
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ランナーに所属団体を求める謎
村上春樹さんが以前あるエッセイでこんなことを書いていた。日本のマラソン大会ではどんなに小さなレースでも立派な選手名簿が作成されて、そこには必ずランナーの所属団体名が明記される。そして日本では村上さんのように「所属なし」のカテゴリーに属するランナーはごく少数だ。一方でアメリカのマラソン大会では選手名簿なるものをあまり目にしないし、そもそも「所属団体」という発想そのものがない。

ぼくは日本で生まれ育った日本人だけど、アメリカに長く住んでいる。走り始めたのはアメリカに来てからなので、日本のマラソン事情にはあまり詳しくないが、アメリカのそれについては村上さんが書いた通りだと思う。

そもそも、日本で走ろうと、アメリカで走ろうと、マラソンはマラソンだ。42キロを自分の足で走る、ただそれだけのシンプルな競技を行うのに、なぜそのような違いが生じるのか。

よく言われるように、日本人は集団主義、アメリカ人は個人主義、そうした国民性の違いがあるからだよ、という風に話をまとめてしまうこともできるだろう。だけど、そう簡単に割り切れるものではないだろうとも思う。日本ではグループ仲間と走る人が多く、アメリカでは1人で走る人が比較的多いという全体的な傾向はあるかもしれないけど、そうではない人も大勢いる。日本でも1人で走るランナーはいるし、アメリカでもランナー同士でグループを作ることだってある。

それに村上さんがそのエッセイを書いたのは1990年代前半だ。およそ四半世紀が過ぎた今、日本のマラソン事情だって変わっているかもしれない。そう思って、某ランナーズ・ポータル・サイトでいくつかのレースのエントリーフォームを確かめてみた。

 

ランナーに所属団体を求める謎

どうやら事情は村上さんがエッセイに書いた頃とあまり変わっていないようだった。どのレースに申し込むにしても、ランナーが記入する申し込みフォームには「所属団体名」の質問が出てくる。「会社名(学生の方は学校名)、所属団体名、所属クラブ名を記入してください」(例)みたいな説明書きがある。さらには「勤務先(あるいは学校)」の電話番号を記入する欄までついてくることもある。

不思議だと言わざるを得ない。ある人がマラソンを走ろうとしたとき、スタートからゴールまでその人を運んでくれるものはその人の脚以外には何もない。その人が株式会社○○に勤めていようと、△△大学に通う大学生だろうと、フリーターであろうと、無職であろうと、そんなことは、その人が42キロを走るうえで、何の助けにもならないし、何の妨げにもならないではないか。

もちろん記入は任意だから(少なくともぼくが見た中では所属先を入力必須にしてあるところは流石になかった)、所属先を答えない選択肢もある。だけど、どうやらランナーの多くは律義に(あるいは喜んで)、この質問に答えているようなのだ。レースの結果を見てみると、ランナーの所属先には会社名、学校名、あるいは何とか走友会の名前が並んでいて、空欄の方が数はずっと少ない。
話の流れから想像がつくように、アメリカでマラソンに申し込むときには、このような質問をされることはない。性別は聞かれる。生年月日は聞かれる。Tシャツのサイズも聞かれる。だが、勤務先はどこかと聞かれたことは、ぼくが記憶している限りは1度もない。ぼくにとっては、それはとても自然なことのように思える。だってぼくがやりたいのはマラソンを走ることであって、住宅ローンを申し込んでいるわけではないのだ。

レース運営側が所属団体を聞くからランナーの帰属意識が強くなるのか、ランナーの帰属意識が強いからレース運営側も所属団体を選手名簿に明記するのか、どちらが原因でどちらが結果なのかはぼくにはわからない。あくまでぼく個人の好みにおいては、マラソンを走るときは、成功しても失敗しても、あくまでも自分自身の責任において、ぼく個人の名前だけで掲載してほしいと思う。

 

仲間と走るメリット

所属団体の質問をそんなに堅苦しく考えることはないのかもしれない。特に所属先を職場や学校名にするのではなく、「走友会」みたいな団体の場合は事情が異なるかもしれない。

週末に仲の良い仲間同士で集まって、皆で励ましあって走って、そのまま居酒屋になだれ込んで、お疲れ様カンパーイ!なんてやったらとても楽しそうだ。その中には師匠とか大御所とか呼ばれる人がいて、次に走るマラソンコースの対策を教えてくれるかもしれないし、初心者にランニングの真髄とは何かって話をしてくれるのかもしれない。全然悪くない。ぼく自身はそのようなグループに所属したことがないから、あくまで想像で語っているわけだけど、そういうのもアリかなとは思う。

仲間と走るメリット
楽しそうだけど、アメリカにはそのようなランナーの団体はないと思う。広いアメリカだから、絶対にないとは言い切れないけど。

その代わり、SNSなどでランナーたちが作るコミュニティみたいなものはよく目にする。アメリカ人にだって、いつも1人で黙々と走っているよりは、仲間と励ましあいたい、情報交換をしたいって人はやはりいるのだ。マラソン・リレー(駅伝のようなもの)などもあるし、話をしながらジョギングする人も多い。皆が皆、孤高のランナーを気取っているわけではない。

アスリートのためのSNSとして有名なStravaが発表したデータによれば、グループで走る習慣がある人は、1人で走るときより10%長く、21%速く走れるようになるということだ。仲間と走ることがその人のモチベーションになり、走力の向上にさえ繋がっているのであれば、ぼくがそれに異を唱える理由は何もない。

 

1人で走るメリット

だけど、ぼく自身がグループに所属して走ることはこれからもないだろうと思う。これは単に性格の問題だ。1人で走ることに慣れてしまうと、まず他人とペースを合わせることができない。相手が自分より速いランナーのときは当然だが、自分より遅いランナーに合わせることも意外に難しい。無理にやろうとすると非常に疲れる。

走りながら会話をするのも苦手だ。大したことを考えているわけではないけど、ぼくにとっては走る時間とは思索の時間でもある。例え「今晩のおかずは何にしようかしら」ってことぐらいしか頭に浮かばなくても、思索は思索だ。走りでもしないと、1人でじっと物を考える時間を持つことは意外に難しい。朝起きてから、夜眠りに入るまで、1時間以上の間、誰とも話をせず、スマホもテレビもPCも本も見ない時間を取れている人はいるだろうか。

1人で走るメリット
1人で走ることは「自由」がキーワードだ。いつでも、どこでも、自分の気分の向くままに走り出してもいいし、あるいは走るのをやめても構わない。

映画「フォレスト・ガンプ」を観たことがあるランナーは多いだろう。フォレストが北米大陸を何回も往復して走っていたときに、多くのメディアレポーターに走る理由を問われて、ただ走りたいって感じただけ(I just feel like running)だと答えた。殆どの人はフォレストの言葉を理解できなかったが、そのフォレストに何かを感じて、後をついて走る人も出てきた。だんだん人数が増えて、まるで走る信者集団のようになっていった。だけど、あるときフォレストが「ちょっと疲れたから家に帰る」と言いだして、唐突に走るのをやめた。置き去りにされた人達は荒野に立ちつくして途方に暮れてしまった。

もちろんこれはおとぎ話ではあるけれど、あることを示唆しているようにぼくには思える。それは仲間といることを走る理由にすると、その仲間がいなくなったら走れなくなるということだ。フォレストのように、走り出すのもやめるのも、すべて自分の中にあるモチベーションに従いたい。誰か他の人にそれを託すのは、少なくともぼくの性分には合わない。

作家のジョン・ビンガム氏の言葉は以前も引用したことがあるが、以下の言葉もぼくは大好きだ。

「長距離ランのトレーニングはポジティブで建設的な意味での自分勝手さの1側面でもある。スタートラインに立った時、君には自分自身以外の何物もない。誰も君のために1歩も走ってくれない。誰も君を助けてはくれない。走り続けるために何をするかを決めるのは君自身だ。君以外の誰でもない」(筆者訳)

蘊蓄のある言葉だよね、やっぱり走るのは1人の方がいいよね、って安易に仲間を求める気持ちはないです。念の為。

 

ここまで読んだオヤジにおすすめの記事2つ。

30代からの筋トレ。何を足して何を引くべきか。(https://yaziup.com/life-style/sport/63329)
まだまだ若い、はランナーのモチベーションになり得るか(https://yaziup.com/life-style/sport/63224)

この記事の作者

角谷 剛【スポーツトレーナー】
角谷 剛【スポーツトレーナー】
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。 【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani
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