スポーツをするなら、酒を飲むのがどれだけろくでもないことか。

  • 2019/08/28
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  • 角谷 剛【スポーツトレーナー】
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最初に自分の立場を明確にしておくけど、ぼくはお酒が大好きな人間だ。10代の頃から飲み始め、以来延々と30年以上、ほぼ毎日のように何かしらのお酒を楽しんできた。お酒を飲んだ日と飲まなかった日を比べたら、飲まなかった日の方がはるかに少ないだろう。

その数少ないアルコール無しの日は偶然にはやってはこない。そこには必ず断酒するための目的があり、それを遂行するための覚悟を決めて、ありとあらゆる手段を講じて、アルコール入りの飲料を自分から遠ざけてきたのだ。勿論、ぼくの断酒は長くは続かない。しかし今までに数えきれないほど何回もやってきた。最長では3か月ぐらいだ。

 

「断酒するのは簡単なことだ。私は既に100回以上やってきた」

「断酒するのは簡単なことだ。私は既に100回以上やってきた」
マーク・トウェインの言葉であるとする説もあるし、そうではないとする説もある。「断酒」を「禁煙」、「100回以上」を「1000回以上」と置き換えられて使われるときもある。

それはともかくとして、ぼくにとっては何回やっても断酒はけっして簡単なことではない。そこには強い信念と経験によって磨かれたテクニックが必要になる。元々お酒を飲まない人は何を大層なことを言っているのだと呆れるだろうけど、うんうん、わかるよ、大変だよねと頷いてくれる人もいるだろう。

人が断酒を思い立つには様々な理由があるだろうけど、ぼくの場合のそれはごくごく限定された理由になる。アルコールを摂取することが、ありとあらゆるスポーツのパフォーマンスを著しく低下させることを身に染みて知っているから、その可能性を排除したかったのだ。だから、大きな大会やレースの前の数か月をトレーニングに集中すると同時に断酒を実行する期間にしてきた。

本当にそんなことをする必要はあるのか?お酒を飲むスポーツ選手なんていくらでもいるだろう。そんな声が聞こえてくることは予想がつく。もっともだと思う。ぼくだってそう思いたい。だけど、アルコールとスポーツ・パフォーマンスの関係については、調べたら調べるほど「都合の悪い真実」が次から次へとこれでもかと出てくるのだ。それらをなるべく主観を挟まずに紹介したい。

 

都合の悪い真実1:運動前のアルコール摂取は運動パフォーマンスを低下させる

都合の悪い真実1:運動前のアルコール摂取は運動パフォーマンスを低下させる
誰でも容易に想像がつくだろうが、アルコールはバランス、反応時間、瞬発力、心肺能力など、多岐に渡る運動能力を低下させる。もちろん酔っぱらった状態で練習や試合に挑む人は滅多にいないだろうが、酒が体内に残っている自覚が消えた後でも、アルコールの運動能力への悪影響は意外なほど長時間に渡って体の中に残る。ある研究では、パフォーマンスへの低下を防ぐためには、運動前の48時間前からアルコールを避けるべきだとしている。疑う人は、二日酔いの状態と通常の状態で、100メートル走でも腕立て伏せでも何でもいいから。自身のパフォーマンスを比較してほしい。

 

都合の悪い真実2:アルコール摂取は筋肉量低下に繋がる

食べ物から摂取したタンパク質を体内で合成し、筋肉を作り上げる作用をつかさどるホルモンがテストステロンだ。テストステロンは男性ホルモンの1種であり、男性に多く、女性に少ない。一般的に男性の筋肉量が女性より多いのは、このテストステロンの働きによるところが大きい。

アルコールを摂取すると、このテストステロンの分泌量が減少してしまうことが報告されている。つまりお酒を飲むと筋肉が減るのだ。

 

都合の悪い真実3:運動後のアルコール摂取は回復を遅らせる

きつい運動をするということは筋肉組織を一旦破壊することだ。その後に適切な休養を挟むことで、痛めつけられた筋肉組織は回復し、結果としてトレーニング前よりパフォーマンスは少しずつ向上していく。これは超回復と呼ばれるメカニズムだ。

アルコールはこの回復を遅らせてしまう。ある研究では、同じ内容の筋トレを行った後に、ウォッカ入りのオレンジジュースを飲むグループとオレンジジュースだけを飲むグループに分けて比較してみたところ、前者(アルコールを摂取したグループ)の筋繊維回復が後者(アルコールを摂取しなかったグループ)に比べて著しく低下していた。

大一番の試合の後なら、体力の回復がいくら遅れても構わないだろう。だが、トレーニング期間であれば、練習と練習の間の回復はとても重要だ。練習の後にお疲れさまの乾杯をすることは、次の練習のコンディションを悪くさせることを意味する。

 

都合の悪い真実4:アルコール摂取は脱水状態を作り出す

ビールを飲むと小便が近くなる。多くの人が経験したことがあるだろう。アルコールには利尿作用があり、その結果として、体から水分が失われるだけはなく、塩分や栄養素も尿として排出され、ミネラルバランスも崩れてしまう。ただでさえ運動をすれば、発汗によって体から水分が失われるのに、アルコール摂取は利尿作用から脱水状態を起こして、運動中のパフォーマンスを低下させ、運動後の筋力回復を遅らせる結果になる恐れがある。

 

都合の悪い真実5:就寝前のアルコール摂取は睡眠を妨害する

質の良い睡眠は体力を回復させるうえで重要なことは言うまでもないが、アルコールはその面でも悪い影響がある。酔わないと眠れないという人もいるだろう。だが、アルコールの力を借りた睡眠は気絶しているのと同じだ。本人の意識は眠っているつもりでも、肝臓はアルコールを処理するためにフル稼働している。このような内蔵への負担もさることながら、アルコールを摂取した直後は眠りが浅くなり、体力の回復に悪影響がある。せっかく睡眠をとっているのに、その効果が減ってしまうのだ。

 

都合の悪い真実6:アルコール摂取は体脂肪を増加させる

アルコール1gには7キロカロリーが含まれる。しかも、他の栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)とは異なり、アルコールは体には本来不要の要素だ。異物と呼んでもいい。だからアルコールが体内に入ると、体はいち早くそれを分解し除去しようとする。その結果、本来の体作りに必要な栄養素の消化が後回しにされる。消化されない栄養素は体脂肪として蓄積されてしまう。

流行りの糖質制限ダイエット理論では、ビールや日本酒などの醸造酒が悪玉とされ、焼酎、赤ワイン、ウィスキーなどの蒸留酒はOKとしていることが多い。蒸留酒が糖質を含まないという意味では正しくても、大抵の場合、それらの種類はアルコール濃度が高い。たとえ体脂肪増加につながらないとしても、前述したアルコールが引き起こす様々な弊害はむしろビールより大きくなることを忘れてはいけない。

 

最後に

最後に
アルコールの悪いところばかりを述べてきたけれど、良いところだってあるだろうと反論することは容易だ。適量のビールや赤ワインなどのある種のアルコール飲料には血圧を下げ、抗酸化作用をもたらすなどといった健康上のメリットがあるとはよく耳にする。「酒は百薬の長」という言葉もある。

だけど、そうした健康効果は適量を守った場合の話であって、いつも適量を守れるぐらいなら、そもそも人は酒飲みにはならない。ビールをグラスに1杯だけしか飲むことを許されないのならば、いっそのこと初めから飲まないほうがマシだ、とぼくなら考える。

第一、抗酸化作用などはブロッコリーを食べていたら充分得られるもので、何もわざわざアルコールを摂取する理由にはならない。

スポーツを本気でやるなら、やはりお酒は飲まない方がよいのだという結論にどうしてもなる。もちろん、お酒にはリラックス効果やモチベーションなどの数字に表れないメリットは多くあると思う。何もそこまでして試合に勝ちたくないと言う人もいるだろう。ぼく自身、何を言われたって、ずっとお酒をやめるつもりは毛頭ない。

それでも、ぼくのようにお酒を飲み過ぎる傾向があるアスリートの中から、1人でもいい、今夜は少しだけお酒を控えてみようかな、と思う人がいれば、一緒に頑張りましょうと連帯のエールを送りたい。

 

ここまで読んだオヤジにおすすめの記事2つ。

30代からの筋トレ。何を足して何を引くべきか。(https://yaziup.com/life-style/sport/63329)
まだまだ若い、はランナーのモチベーションになり得るか(https://yaziup.com/life-style/sport/63224)

 

この記事の作者

角谷 剛【スポーツトレーナー】
角谷 剛【スポーツトレーナー】
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大谷翔平を語らないで語る2018年のメジャーリーグ Kindle版』、『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。 【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani
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