甲子園の土って何時ごろから持ち帰るようになったのか?
- 2018/07/28
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甲子園の土が、税関で没収されたという悲劇
「タイからドリアンを日本に持ち込もうとして、税関で没収」
私・アントニオ犬助は友人からこんな話を聞いて、大笑いをしたことがあります。
なぜこの男は強烈なニオイがするドリアンを手荷物で持ち込もうとしたのか?機内でもしものことがあった場合、どうするつもりだったのか?そこまでドリアンを愛してしまったのか?
しかしドリアンが税関で没収されたのは、なにもニオイのせいばかりではないのは、ご存知の通り。ドリアンに限らず海外から持ち込まれた果物は100%没収されてしまいます。
なぜなら海外から果物や植物、動物の持ち込みを許してしまうと病菌や害虫もいっしょに付いてくる可能性が高まる。こんな理由から禁輸処置がとられているのです。
そんなドリアンと同じ扱いを受けて、税関で「甲子園の土」が没収されてしまった。こんな悲劇が起こったのは1958年。
この年に開催された「全国高等学校野球選手権大会」通称・夏の甲子園は、第40回の記念大会。当時はまだアメリカの占領下にあった沖縄県の首里高校も迎えてられ、史上初、全47都道府県の代表が顔をそろえた大会となりました。
そんな首里高校は、善戦するも1回戦で敗退。球児たちは「甲子園の土」をビニール袋に納めて沖縄へと帰っていったのですが、この土がアメリカの検疫法に抵触したという理由で沖縄港で没収されてしまったというのです。
「沖縄も元はといえば同じ日本」「球児たちの思いを踏みにじるとは、何という仕打ち」
この出来事は大きな反響を呼び、沖縄返還運動にも拍車をかける結果になったといいます。
最初は元巨人軍監督・川上氏だったとか
まあ、何ともやるせない出来事なのですが……このことから考えると、甲子園で戦った記念に土を持ち帰るという風習は1958年には一般的になっていたということになります。
それ以前だと「打撃の神様」こと、当時熊本工業の川上哲治氏が1937年に持ち帰ったのが最初だとか、新聞報道されたのは1946年に東京高等師範付属中が持ち帰ったのが最初だとか色々いわれていますが、そのどれも一握り程度をポケットの中にしのばせるという奥ゆかしいものだったよう。
1958年の首里高校の件でもポケットの中の少量の土ならば、税関で没収されるということまでは至らなかったと思うのです。
シューズバッグにつめるなど、現在のように大々的に持ち帰られるようになったのは、NHKがテレビ中継を開始した1953年ごろからではないか?と、推測されるのです。
持ち帰る土は、やはり特別なものなのか?
そんな球児たちが思い入れたっぷりに持ち返る甲子園の土ですが、どんなものか? というと、甲子園の整備を長年手がけている「阪神園芸」が鹿児島や岡山、三重などで採取した黒土と、中国福建省や瀬戸内海などで採取した砂を独自のブレンド配合したもの。
整備のしやすさや水はけ、ボールが見やすいようにとかイレギュラーしないようにとか、様々なことを考慮されて作られているものではありますが、土自体はそれほど貴重なものではありません。
ずっと目指してきた甲子園のグラウンドに立つことができたから、球児たちにとって甲子園の土は貴重なものになるはずなのですが……この土が以前、一般販売されたことがありました。
商品名はずばり「阪神園芸グラウンドキーパーの土 ~土も生きている~」。
甲子園以外のグラウンド整備にも活用してほしいとの思いで1袋・15リットル入り・2,310円販売したところ「意図せずして」単なる「野球好き」からの注文が殺到。注文の実に9割を占めるまでになりました。結果、購入条件を「野球関係者のみ、10袋以上から」と改めざるを得なかったというのです。
しかし注意したいのは、このときに販売されたのは、単なる甲子園の土と「同じ配合の土」。別に熱闘の跡が染み付いた(であろう)甲子園に使用されいた土ではないのです。
まあ阪神タイガースのファンは甲子園を、何のてらいもなく「聖地」と呼んだりしますが……一部の人にとっては洒落でもなんでもなく、甲子園は聖地なのですね。
甲子園の「土も生きている」のだそうで
ちなみに、この「阪神園芸グラウンドキーパーの土」にある「土も生きている」とは、伝説の甲子園のグラウンドキーパー・故・藤本治一郎氏の言葉。
阪神園芸は甲子園球場を始めとして様々なスポーツ施設の監理もおこなっており、ノウハウは高く評価されているのですが、それも藤本氏以来の伝統が息づいているから。
プレイが最上のものになるように、まるで生き物であるかのように土に対して愛情と細心の注意を注いでいるからといいます。
そんなことを頭の片隅に置きながら、8月5日から始まる夏の甲子園を観戦すると、味わいも深まり甲子園の土を持ち帰る球児たちの姿も、より特別なものに思えるかもしれません。