「いちご大福」の開発者は、なぜ特許を取らなかったのか?
- 2018/11/30
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犬助、今らさながら「かりんとうまんじゅう」を知る
先日、とてもおいしいお菓子をいただきました。非常にシンプル、初めて食べたにも関わらず懐かしい味がするお菓子で、私、アントニオ犬助は衝撃を受けたもの。そのお店の大ヒット商品となっており、多いときなら一日で7,000個も売れるといいますから、驚かされますね。
「こんなお菓子を生み出すとは、あのお店ってすごいな」と、犬助は舌を巻いていたのですが、Webでちょっと調べたら同じ名前のお菓子が出るわ出るわ、日本中に存在しているじゃないですか。オリジナルでも何でもなかったんですね。
そのお菓子の名前は「かりんとうまんじゅう」。Wikipediaには福島県田村市の老舗菓子店が発祥と書かれています。
「かりんとうまんじゅう、今ごろ知ったのかよw」とか、そんな話は別として。
犬助が不思議に思ったのは、田村市の老舗和菓子店はなぜ、かりんとうまんじゅうを自身たちだけのものとしなかったのか?ということ。例えば特許を取得してしまえば、莫大な利益を手にすることも可能だったのでは?と思ったのです。
そこで、似たような事例として「いちご大福」について調べてみました。
このオリジナルは(諸説はありますが)、東京都新宿区にある「大角玉屋」さんという和菓子店。和菓子離れに頭を悩めていたご主人が、試しにいちごを大福に入れてみたら、一日に数1,000個も売れるヒット商品になったというのですが、その後、日本中で類似品が製造され爆発的にヒットしたのはご存知のとおりです。
大角玉屋さんが製法で特許を取得したのは、日本中にいちご大福が広がった後。「元祖玉屋いちご大福」で商標登録をしたのも、発売から15年もたった後のことでした。
特許は取得だけでなく、維持するのにも金がかかる
なぜ特許を取るのが遅れたのか? というと……ここからは犬助の憶測も含まれるのですが……出願するだけで結構な金がかかるから。
登録料や印紙・手数料、審査請求費用、司法書士らへの成功報酬などの合計で70万円ほど。加えて、特許を維持するのにも金がかかる、その費用は20年間で100万円以上とか。1個数100円のお菓子のために、と考えるとこの費用は非常に大きく感じる。そりゃあ出願するのに二の足を踏みますよね。
また、出願してから認められるまでに、数年という時間もかかります。
そうこうしている内に、大角玉屋さん以外のいちご大福も大ヒット。新規性がなくなってしまいましたから、商標登録も「いちご大福」ではできなくなってしまった。これが「元祖玉屋いちご大福」でしか商標登録されていない理由でしょう。
特許出願が遅れても、生じるメリット
しかし、大企業が開発した商品となると話は違います。
発売してすぐに特許を出願しますから、パッケージに「特許出願中」と印刷することで他社が類似品を造るのを牽制することもできますし、類似品が出てきたら特許権の侵害で訴えることもできる。
しかし、先述の大角玉屋さんクラスの小さなショップだとそうはいかない。いちご大福のコピーを造っているショップを一々訴えるのは、時間的にも費用面でも現実的でもない上に、自身のイメージダウンを招く恐れもあります。
ならばなぜ、いちご大福が巷にあふれかえったころに、あえて大角玉屋さんは特許や商標登録をおこなったのか? というと、それで「元祖」であること、オリジナル性を強調することができるから。他のいちご大福よりも格上感を演出することができる。
そのせいで大角玉屋さんのいちご大福は、依然として大ヒット中。
「元祖はやっぱり、美味しさが違う」とWebなどでも高評価がなされているのです。
売上の極端な拡大を、あえて望まないという方法
ちなみに大企業が、発売と同時にガッチリと特許と商標を抑えたケースといえば、ロッテ「雪見だいふく」。発売当初こそ類似品が出回っていたことをおぼえていますが、特許取得とともに他社は撤退。現在はご存知ロッテの独壇場、年間で70億円を売り上げるといいます。
でも、大角玉屋さんくらいの大きさの企業が70億円もの売上を望んでいるか? という点には疑問が残るもの。製造設備、流通、販売、人員、全てにおいて70億円規模に拡大しなければなりませんから、コストもリスクも莫大なものとなる。これを嫌って、あえて元祖と名乗るのにとどめておいたと考えることができる。これと同じことが、かりんとうまんじゅうにも起こっているのではないでしょうか。
大角玉屋さんや田村市の老舗菓子店は、大儲けのリスクよりも堅実路線を選んだということ。そのおかげで、追従した他のショップも儲けることができるようになり、日本中でいちご大福や、かりんとうまんじゅうを楽しめるようになったということ。
こういうのを「WIN WIN」っていうんですかね?