緊急を要するときに使う「SOS」って何のこと?
- 2018/09/05
- ライフスタイル・娯楽
- 575view
- 教養/知識
- アメリカ
- システム
- 事故
- 知識
「・・・ --- ・・・」「・・・ --- ・・・」
ベッドに横たわる男、戦場で身体に大きなダメージを負い五感すら失った彼は、唯一動く頭を枕に打ち付けて、周りの人へとメッセージを送る。
ああ、思い出しただけで陰鬱な気持ちになります。
1989年に発表されたメタリカ「ONE」、ミュージックビデオのワンシーン。この曲はバンド初のスマッシュヒットとなり、彼らが世界的にブレイクを果たすきっかけとなったのですが、まあメッセージも重ければ曲も重い……こんな曲がヒットするアメリカって国はよくわからないと、思ったものです。
さて、この陰鬱なシーン、彼が必死に送ろうとしたメッセージとは「SOS」。
体の自由が効かない彼は、頭を打ち付けてモールス信号を送り続けるのです。
「・・・ --- ・・・」「・・・ --- ・・・」
単純だから、広まったモールス信号
さて、このモールス信号とは「トン」と発音される「・」と「ツー」と発音される「-」、2つの音を組み合わせてメッセージを送るシステム。アメリカの発明家、モールス氏が1840年ごろに発案しました。なぜ2つの信号を組み合わせるなどという面倒なシステムを考えたか?というと、当時は有線にしても無線にしても、出力や回線が貧弱だったから。
ノイズが混じっても信号が聞き分けられるように、単純な2つの音で発信したのですね。
送信機の仕組みが単純だとか、音の代わりに光のオン・オフでも表現できるとか。
モールス信号には多くのメリットがありますから、しばらくは軍事や電報、漁業など情報をやり取りする必要がある、様々なジャンルで用いられていました。
しかし、電話やインターネット、衛星といった具合に回線が発展するとともに、存在意義が激減。モールス信号が使われるシーンはめっきり少なくなってしまいました。
「SOS」・「CQD」、2つが混在していたころ
とはいえ、モールス信号の全盛期には海難事故にあったりすると「SOS」信号が発信されていたのですが、この「SOS」自体には意味がありません。
SOSとは「Save Our Ship」の略だとか、「Save Our Souls」の略だとか。
色々な説があるようですが、これらは全部ウソ。単に打ちやすく、聞き取りやすい音を組み合わせたものが「SOS」なのです。
加えて「SOS」信号を最初に発信したのは、タイタニック号ともいわれているようですが、これもウソ。
それより前の1909年、アゾレス諸島で難破した「スラボニア号」が救難信号の最初なのですが……20世紀始めごろの救難信号は「SOS」ではなく「CQD」が主流だったとか。
ですからタイタニック号にしても、スラボニア号にしても発信した救難信号は「CQD」だったと推測されています。
ちなみに「CQD」にも、それ自体に意味はなく単に打ちやすく、聞き取りやすい音を組み合わせただけ。
「CQD」はモールス信号では「-・-・ --・- -・・」となる。打ちやすさでも、聞き取りやすさでも「・・・ --- ・・・」、「SOS」の方が上、ということもあって「CQD」は「SOS」へと一本化されていきます。
「-・- ・・ ・-・・ ・-・・ -- ・」
さてテクノロジーの進歩により、すっかり過去の遺物となったかに見えるモールス信号ですが、自衛隊ではバッチリ現役だそう。高度で複雑な通信手段は他にあるものの、やはりシンプルなモールス信号の信頼性はバツグンということでしょう。
またアマチュア無線の愛好家の間でもモールス信号のファンは多いそうで、今でもモールスを乗せた電波が昼夜多数飛び交っているとか。まだまだモールス信号は現役なのですね。
ところで冒頭で紹介したメタリカのMVは、映画「ジョニーは戦場へ行った」から引用したもの。「SOS」のモールス信号は受け取ってもらえたものの、彼の願いは聞き入れられることなく、五感を絶たれた暗闇の世界で、彼はモールス信号を打ち続けることになります。
「-・- ・・ ・-・・ ・-・・ -- ・」
「-・- ・・ ・-・・ ・-・・ -- ・」
あかん……今回は、すっかり陰鬱な気分に浸りつつ筆を置きます。
興味のある方は、 モールス符号へ変換 (和文・英文から、モールス符号へ変換)をご利用ください。