捨てられるパンがビールになる?英国発トーストビールって何?

  • 2018/10/30
  • ビジネス
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  • 沖倉 毅
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英バーバリが昨年、ブランドイメージ保護の為、衣料品やアクセサリー、香水など2800万ポンド(約41億8000万円)相当の売れ残り品を処分していたニュースが、国民だけでなく世界中から非難の的になった事は記憶に新しい。

毎年2400万枚のパンがゴミになる英国

『モンブラン』などのブランドを傘下にしているスイスのリシュモングループも過去2年で、4億8000万ユーロ(約628億7000万円)相当の腕時計をブランド保護目的で処分している事が明らかになった。

こうした現状を踏まえ、欧米諸国では『サーキュラーエコノミー』という言葉が注目を浴びている。
作りすぎで捨てられるものを再利用して新たな製品を作り、売れ残りを防ぐというものだ。

英国のビール業界では『あるもの』をリサイクルし、ビール作りをしている、それは何か。

 

毎年2400万枚のパンがゴミになる英国

英ヨークシャー地方ドリフィールドにある醸造所『ワールド・トップ・ブルーワリー』では、ビールの醸造にサンドウィッチ工場から廃棄されたパンの耳を使っている。

タンクの中に入れたパンの耳、ホップ、イースト菌が、ビールの原料だ。
こうしてできたビールは『Toast Beer(トーストビール)』と呼ばれるが、パンの味がするのではない。

毎年2400万枚のパンがゴミになる英国

ビールの名の由来は、原料のパンだが、英国で製造されたパンの4割以上、枚数にして年間約2400万枚のパンがゴミとして廃棄されている事実を反映させている。

廃棄される内訳は、個人の買いだめだけではなく、メーカーの過剰在庫が主な原因で、品切れで客を逃すよりも、多めに作った方が安上がりという意識からだという。

これは日本の大手パンメーカーでも同じ事が言えるのではないだろうか。

毎年2400万枚のパンがゴミになる英国

ではトーストビールの成り立ちは、どこから来ているのだろうか。

 

製造法をネットで公開、食品ロスを減らす

トーストビールを創業したのは、食品廃棄物をなくす活動をしているNGO『フィードバック』の創業者トリスティ・ステュワートだ。

ステュワートは、’15年にベルギーの小さな醸造所、ブリュッセル・ビア・プロジェクトで、残り物のパンを利用して生産しているビール『バビロン』にインスパイアされ事業を立ち上げた。

製造法をネットで公開、食品ロスを減らす

『古代バビロニア人が、無駄になってしまうパンや穀物をリサイクルしようとしたのがビールのルーツでは。』

ステュワートは語る。

トーストビールの共同責任者ルイーザ・ザイアンは、『パンでビールを作るのも、ホップで作るにも、大掛かりな設備の変更はない。こうした考えが業界に広まれば、サーキュラーエコノミーの発展につながる。』とメディアに向けてコメントしていた。

’16年に創業したトーストビールの使ったパンの量は、’18年でやっと100万枚に達したばかり。
ビールメーカー1社だけでは、毎年国内で2400万枚廃棄されるパンをリサイクルシステムを作る事は出来ないとして、ステュワートは製造法をネットで公開。

現在では英国6州の醸造所と協力しているだけでなく、米国、南アフリカ・ケープタウン、ブラジルのリオデジャネイロの醸造所と契約し、廃棄されるパンをビール作りに回す事が出来るようになった。

製造法をネットで公開、食品ロスを減らす

その甲斐もあり、トーストビールは、ラガーや、ペールエールも出回り、バリエーションが増えた。
英国内では既に9.8とんの破棄されるはずのパンがビール作りに利用され、トーストビールの値段も1本あたり、2.5~3ポンド(380円~450円)とまずますに抑えられている。

では、ステュワートの最終目標は何だろうか。

 

最終目的はリサイクルビールがなくなること

意外かもしれないが、ステュワートの最終目的は、トーストビールの様な、リサイクルビジネスがなくなる事だという。
食品ロスを掲げる彼にとって、トーストビールのビジネスは、目の前にある問題を解決する手段に過ぎないのだ。

今の所は地元で売れ残ったパンを提供元と協力しながら世界中のビール業者がトーストビールを生産出来る様にして、サーキュラーエコノミーを確立することが目的だ。

パンからビールを作る事は古代文明の時代から実践されてきた。
カビはビールの大敵なので、使うパンは新しいものでなければいけない。

最終目的はリサイクルビールがなくなること

という事は市場で、それだけ新しいパンや、パンに長期間カビを生やさないようにするために添加物を入れたパンが、廃棄されているという事実を私たちが認めなければいけないのだ。

食品はたくさん作った方が損をしなくてすむというビジネスモデルがなくならない限り、ステュワートの仕事はなくならないだろう。

この記事の作者

沖倉 毅
沖倉 毅
ビジネスと国際関連をメインに執筆しています沖倉です。 転職経験と語学力を生かし、語学教師とフリーライターをしています。 趣味は定期的に記録会に出る水泳、3000本以上お蔵入り字幕なしも観た映画、ガラクタも集める時計、万年筆、車、ガーデニング、筋トレです。 どうすれば永遠の男前になれるかをテーマに、取材は匿名を条件に記事執筆に勤しみます。
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