元救急外科医・台湾総統候補と呼ばれる理由と人気
- 2018/10/22
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台湾には、245もの政党があるが、実際に国会である立法院に議員を送り出しているのは、わずか5つだ。
事実上は、一党独裁政権時代から続く中国国民党と、独立を目指す民進党の二大勢力が国会で争っている。
現在の台湾の葵英文(ツァイ・インウェイ)総統は民進党出身で、国内政治だけでなく外交政策も苦戦を強いられている事は拒めない。
台北市長選を含む地方選は11月24日に投開票が予定されているが、民進党、国民党共々求心力が弱まる中、一人の男性に注目が集まっている。
11月の統一地方選で、台北市長再選を目指す、柯文哲(コー・ウェンチョー)氏だ。
救急部門外科医から市長になったという異例のキャリアの持ち主だが、何故彼が市長という枠を超え、次期総統に相応しい人物と言われているのだろうか。
外科医から政界へ
柯氏は、’59年8月6日、台湾のシリコンバレーと言われる新竹市に生まれた。
国立台湾大医学部を首席で卒業し、国内の臓器移植の確立に勤めた。
政治に関わる事になったのは、後に10~11代総統となる陳水篇氏が台北市長に立候補した時に、医学界幹部として後援会として携わった事がきっかけだった。
その後、’14年11月、柯氏は台北市長選に無所属で立候補。
民進党の後押しを受け、与党国民党の連勝文を下し当選した。
選挙期間中は連勝文の父の連戦(元中国副総統)から、柯の祖父は日本人だったから青山文哲と名乗っていた時があった裏切り者だと罵られたが、有権者らは、連戦の指摘を時代遅れで心が狭いと揶揄。
柯氏の当選の追い風となった。
それだけでなく、選挙戦の4年前、’10年に連勝文が演説中に銃撃された時に、命を救った外科医が柯氏である事も後から判明。
柯氏は当選後、否が応でも脚光を浴びる事になった。
なぜ市長というだけでなく次期総統という呼び声が高くなっているのか。
4つの相互力を軸に世論を引っ張る無所属
台湾の世論調査では、国民党と民進党の支持率はそれぞれ2割。
残りの6割は200以上ある小さな政党か、政治に関心がありつつどの政党も支持しないという若者たちだ。
その背景にあるのは、二大政党が代わる代わる政権を握っても庶民の生活の質が全く向上しなかったという台湾の実情を反映している。
柯氏の講演やイベントに参加するのは、二大政党を支持しないが、政治に興味がある無党派層の30代~40代で、彼らは一様にこう言う。
『政権が変わっても生活がよくなった実感がわかない。』
低賃金、地価高騰という問題が重なる台湾で柯氏は、公団の整備や交通網の整理など
暮らしに密着した政策に最初に手を付けて注目を集めた。
講演が開かれた南部の都市でも行列ができ、2020年の時期総裁選を視野に入れた世論調査では、総裁の葵英文を上回る支持を集めている。
昨年は、台湾で初めてとなる国際総合スポーツ大会・夏季ユニバーシアードを成功させた事で、知名度を上げた。
外交上、中国と台湾の関係が冷え切った中、中国不参加が危ぶまれたこの大会で、柯氏は大会開催前訪中し『両岸(中台)は一つの家族』という習近平国家主席の言葉を引用し、中国の参加を呼びかけ、大会を成功させた。
柯氏の政策方針は『4つの相互力』が軸となっているという。
『認識、理解、尊重、協力』の4つの相互力だ。
これは外科医である彼は、目の前につきつけられた問題を解決する為に選んだ手段なのだという。
無所属という立場をフルに活用し、長年冷え切っていた中国との関係を改善に持って行った事は大きな進歩だろう。
だが、この行動が彼を4年前に推していた民進党から遠ざける事になってしまう、それはなぜか。
民進党と離れる政策
葵英文台湾総統は、10月10日の辛亥革命を記念する『双十節』で演説。
米国や中国との関係の親密さを強調する一方で、過去に強調していた、中国への関係回復への呼びかけを今回は演説の内容に盛り込まなかった。
その代わり、総統が所属する民進党は、今回台北市長選に対抗馬として別候補を立てるといい、柯氏に対抗するつもりだが、柯氏の勢いは収まりそうにない。
台湾メディアは柯氏が各地の選挙応援に出没するさまを見て『チルドレンを作るのでは』と揶揄しているが、彼自身は政党作りに全く興味はないと、メディアの質問をかわした。
柯氏曰く、政権交代が過去に三回あり、2政党とも政権を握ったが結果が出なかった。
統一派の人も独立派の人も議論が空回りするだけで、アジア四小竜と言われた台湾が
取り残されたのは事実だという。
目の前にある問題を的確に解き明かすうちに政界への道が開けていったという柯氏。
総統への道が有望視されるが、それに対するメディアへの答えをいつも用意しているのだという。
『医者の私が市長になった事が人生の例外だ。総統選については何も考えていない。』
そんな彼に、また人生の例外はくるのだろうか。
それは台湾国民の手に託されているのだろうと思う。