バッタの大群…中国シェアリングエコノミーが辿る末路
- 2018/10/13
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簡単に利用出来る事から『中国の新四大発明』の一つとまで言われたシェア自転車。
3年前に北京大学の学生が発案してから爆発的に広がり早3年。
参入業者の過当競争と、不明瞭なビジネスモデル、利用者のモラルのなさが絡み合い、急激に失速している。
’18年はじめから、街角や郊外には、乗り捨てられたり、壊れたシェア自転車が置き去りにされ、回収されずに行政が撤去する作業が行われた。
今やバッタの大群と揶揄され、さげすまれるシェア自転車の背景にあったものとは何なのか。
シェア自転車の置き場所がない
中国国内で注目を集めているのは、シェア自転車が大量に放置、もしくは保管されている様子を望遠もしくはドローン撮影したものだ。
撮影したのは写真家の呉国勇(54)と映像プロデューサーの羅大衛(42)。
’18年はじめから中国各地の保管場を探し、20都市32箇所を撮影。
『無処安放(置き場所がない)』と題した作品を公開した途端、シェア自転車の弊害に対する意識が瞬く間に国民だけでなく世界各国の知識層に広がった。
『野蛮に成長した資本が保管場の奇観を出現させている。
作品を通して企業による資源の浪費や政府の管理責任、利用者のマナーの向上を訴えたい。』と二人は語る。
では中国でシェア自転車が産まれたきっかけとは、また、これだけ爆発的に広がった背景にあるものとは何だろうか。
利便性を追求して作ったはずの業界だった
中国でシェア自転車の原型が産まれたのは4年前。
北京大学の学生だった戴威はキャンパス内の移動に時間がかかるのに気づき、学生同士で中古の自転車を集め、構内に配置し、共同で使うシステムを思い付いた。
このシステムを他の大学でも試し、’16年11月にビジネスモデルとしてofoというシェア自転車会社を作ったという。
それに先駆けて、Uber上海の総経理の王暁峰と元ジャーナリストの胡瑋煒が創業したのがモバイクだ。
GPSで車体を追って回収する為、利用者は好きな場所で乗り降り出来る上、施錠、解錠、料金の支払いはスマホで出来る。
乗り捨てや損壊は利用におけるペナルティ加算される為、悪質なユーザーが利用する事は防げるはずだった。
’18年5月現在北京では190万台、上海でも150万台投入され、世界各国にもビジネスを広げ、日本にも進出しているシェア自転車。
業者は数百社に上り3000万台となった。
3年前の登録数が250万人だったのに対し、昨年末は2億人。
これからますます増えると見られている。
5000億人もの投資資金が流入したといわれるシェア自転車業界、何が問題となり失速したのか。
質より量が足を引っ張った
シェア自転車失速の理由は、自転車の数を増やして利用者を囲い込む為に運営会社が競い合い『質より量』で責めた事だ。
’18年初頭から不法処置自転車の大量発生が目立ち始めた理由の一つに『乗り捨て自由』の規約をご都合主義に解釈する中国人の人間観があった。
日本人であれば、業者指定の場所にシェア自転車を戻す事を守るだろうが、中国人はその名の通り、そこら辺に乗り捨て、面倒であれば捨ててしまうのである。
もちろん、きちんとマナーを守ってシェア自転車を利用している人もいるのだろうが、
マナーを守らない人が圧倒的多数なので、埋もれている。
これに対し各業者は、放置自転車をトラックで撤去にかかったが、間に合わなくなってしまった。
上海では昨年8月、シェア自転車の設置を行政で禁止したが、それでも追いつかない。
過当競争で次々と新しい業者が参入した為に、街に自転車があふれる様は、バッタの大群だ。
参入企業は儲かる事が判っていたのだろうか。
ビジネスモデルが不透明だった
モバイクのGBS付き自転車は一台1000元(17000円)だが、利用者が払う料金は1回あたり30円で、単純計算しても570回シェアしなければモトはとれない。
これは故障しないという前提のもとにだ。
だがどの国の人であろうと、シェア自転車をそんなに丁寧に乗るとは思えない。
日常使用の傷、故障、悪意による損壊、不法投棄、私物化、盗難など、シェア自転車にはリスクがつきものだ。
24時間路上に放棄されているので、カゴの部分がゴミ箱になる事も往々にしてある。
1万台につき50人のメンテナンス部隊を確保しているモバイクは、毎日の自転車の修理は追いつかない。
自転車の『数』はあるのだが『質』は追いつかない。
この業界もフランチャイズと同じで、新規参入の業界がなければ共倒れとなってしまう。
モバイクは『沈みゆく船』を見切る形で、全ての株式を中国最大のユニコーン企業と言われるフードデリバリーサービス『美団点評』に34億ドル(3650億円)で譲った。
胡は『雇われCEO』として残るが、王はモバオクのビジネスモデルの不透明さに疑問を抱き、業界から離れる方針だ。
一方、ofoの戴威は、自分のビジネスモデルは貧困層の生活を向上させるためにやった事という初心に戻る為、ビジネス規模を縮小するという。
ビジネスは大きくなれば大きくなるほど、足元が見えなくなってしまうというが、
シェア自転車はその典型ではないだろうか。