江戸の庶民がこよなく愛した酒は、てんびん担いで売られた焼酎
- 2016/08/09
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江戸の庶民が飲んだのは、焼酎だった
映画やテレビの時代劇には、江戸の町中にある小料理屋がたびたび出てきますね。たいていは美人の女将がいるそこで登場人物たちが飲むのは、日本酒。雑菌を殺すために燗をつけるのが普通だったからでしょう、木の卓の上にはとっくりが並んでいるというのが基本パターンです。
ところが、そんな光景、この時代の庶民の実生活とはいささか縁遠いもののようです。というのも、この時代の庶民、ことに下層の人たちが飲んだ酒の代表は、焼酎だったからです。
Attila JANDI / Shutterstock.com
酒粕を蒸溜してもう一度酒に仕立てる
焼酎といえば、福岡〜熊本に多い米焼酎、宮崎〜鹿児島に多いいも焼酎・そば焼酎が思い浮かぶでしょうが、江戸の人たちが飲んだ焼酎はそれら現代の焼酎とはちょっと違います。
日本酒は酒米を醸造して造りますが、このとき、もろみ(酒母に水、麹、蒸し米を仕込んだもの)を圧縮・濾過したあとに白い固形物が残ります。酒粕です。この酒粕を蒸溜してもう一度酒に仕立てたものが、江戸期に飲まれた焼酎です。
「もろみ取焼酎」と「粕取り焼酎」の2つが代表
実際には複数の製法があり、そのうちの代表的なものが、「もろみ取焼酎」「粕取り焼酎」などと呼ばれています。終戦直後の焼け跡で飲まれた「カストリ焼酎」の語源は、どうやらここにありそうですね。
製法の詳細はわかりませんが、「もろみ取焼酎」と「粕取り焼酎」では味わいが異なり、前者は籾殻を混ぜて造るために焦げたような匂いが強く、後者は吟醸粕を使うので日本酒をよりすっきりさせたような味と言われます。実際の江戸期の焼酎の味は想像するしかありませんが、匂いが強いからこそ好まれたという可能性もありそうです。
江戸焼酎の血筋は、いまも受け継がれている
「もろみ取焼酎」も「粕取り焼酎」も過去の酒ではありますが、その血筋は全く絶えたわけではなく、現代風にアレンジされたものが、数こそ少ないものの、いまも造られ続けています。
「もろみ取焼酎」の代表は、奈良・北岡本店の「やたがらす 吟醸粕焼酎」。「日本酒みたいな米焼酎」として人気を集めています。
一方、「粕取り焼酎」の代表は、山形・菊勇の「三十六人衆 大吟醸粕取焼酎」。これまた吟醸香豊かな、すっきりした味の焼酎です。
そうそう、新潟を忘れてはいけません。日本酒「八海山」で知られる八海醸造には、「よろしく千萬あるべし」という粕取り焼酎の名品があります。
残念ながら、多くは限定製造。いつでもどこでも手に入るというわけにはいきません。旅行で出かけたら、土地の料理店や居酒屋で味わうのが一番でしょうか。