なぜ、裁量労働制は「働かせ放題」といわれるのか
- 2018/04/08
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裁量労働制の適用拡大は見送りになりましたが…
3月1日、安倍内閣による働き方改革の一政策として進められていた「裁量労働制の適用拡大」が、野党の強い反発を受けて先送りとなりました。これは1月29日に安倍首相が衆議院予算委員会の国会答弁で使用した、「裁量労働制の労働者の労働時間は一般労働者より短い」というデータに不備があったことが発端です。
このデータによると、裁量労働制の労働者は一般労働者より労働時間が21分短いとされていました。しかし野党からデータ不備の指摘があったため、作成した厚生労働省が調査したところ、裁量労働制の労働者と一般労働者に違う質問をしていたことが判明したのです。
その質問内容は、裁量労働制の労働者には「通常の1日の労働時間」、一般労働者には「1か月で最も残業が多い日の残業時間」。前提がまったく違うので、比較できるわけがありません。これを受けて安倍首相は2月14日に答弁を撤回し、厚労省も19日に謝罪会見を行いました。
しかし野党からは「意図的な捏造ではないか」と追求が続き、国民に不信感が広がったため、安倍内閣は裁量労働制の適用拡大を法案に盛り込まないと決めたのです。
これに対し、一般労働者からは「あんな働かせ放題の制度は先送りどころがそもそもなくていい」という声が上がっています。なぜ、裁量労働制は「働かせ放題」になってしまうのでしょうか。
裁量労働制は自分の裁量で働ける人のためのもの
裁量労働制そのものは特に新しいものではなく、すでに導入している企業があります。基本的には労働時間をすべて一定の時間とみなす制度で、出退勤の時間制限がなくなる一方、どんなに働いても残業代は発生しません。みなし労働時間が8時間なら、半分の4時間しか働かなくても、倍の16時間も働いても、給与は8時間分のみ支払われるのです。
少し不思議に感じる制度かもしれませんが、自分の裁量で仕事ができる人には大きなメリットがあります。早くできる仕事は早く終わらせて退勤しても、みなし労働時間分の給与が支払われるからです。これは労働生産性の向上にもつながります。
ただし、すべての労働者がこのような働き方をできるわけではありませんよね。このため、裁量労働制は研究者やゲームクリエイターのような専門性が高い業種を「専門業務型」、企業の中心で自律的に企画や分析をする頭脳労働者を「企画業務型」と分類して、これに当てはまる業種に適用されています。
今回、安倍内閣が掲げているのは、この裁量労働制の「適用拡大」。つまり、適用される業種が増えるのですが、ここに裁量労働制が「働かせ放題」になる闇が潜んでいます。
自分の裁量がない人に裁量労働制を適用すると悲惨なことに
裁量労働制の適用拡大の対象となっているのは、企画業務型のほうです。従来の企画業務型の対象は、独自に事業や営業の計画を決定できる権限を持つ労働者なので、範囲がかなり限られていました。
ところが、適用拡大の対象には「法人顧客の事業について企画や分析を行い、その結果を活用して営業を行う業務」と「自社事業について繰り返し、企画や分析を行い、その結果を活用して事業の管理や評価を行う業務」も含まれます。これはつまり、法人を担当する営業職やひとつのプロジェクトを担当するチームリーダーも裁量労働制の対象になると考えられるのです。
しかし、営業職やチームリーダーが自分の裁量で働けるでしょうか。実際には上司がいて、その指示のもとに働くのですから、自分で出退勤時間など決められませんよね。それどころか、無理な長時間労働を命じられるかもしれません。しかも裁量労働制では残業代が支払われないのです。これが、働かせ放題になるといわれる理由です。
もともと「自分の裁量で働ける」ことが前提になっている裁量労働制を無理に適用拡大して、自分の裁量で働けない人にまで適用するのはもはや理論が破綻しています。それでも今回の適用拡大は「見送り」にすぎないので、安倍内閣はいずれまた法案に盛り込もうと考えているでしょう。そのときには「働かせ放題」にならないよう、国民が強く声を上げなくてはなりません。