「あの人の名前?誰だっけ・・・??」を無くすためにコレで解決!【内科医が悩み可決】

  • 2019/05/08
  • ヘルスケア
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  • 浅野 翔吾【内科医】
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あれがだれだっけ!

皆さんは人に何か必要な物をとってほしい時に「ほら、何だっけ?あれとって!あれ!」、商談や打ち合わせなどで「あの人の名前?だれだっけ・・・」と物や人の名前がスムーズに出てこずに困ってしまう経験はありませんか?

学生のころや働きだした頃はそんなことなかったのに30~40代のいわゆる働き盛りの「オヤジ」世代になるにつれていわゆる「ど忘れ」という現象がやけに多くなったことに気が付く方もおられるでしょう。

また会議やミーティングなどでの厚い資料に目を通したときに若い人達はすらすらと内容について話をしているのに自分は昔ほどしっかりと記憶に残らず、細かい内容まで覚えきれる自信がないことに気づいたりすることなどはありませんか?今回はこのような中年期のいわゆる物忘れに関して解説させていただきます。

 

こんな場合は大丈夫

物忘れと言ってもいろいろあります。その中でこんなパターンは大丈夫という場合を挙げてみます。例えば最も多いのは仕事をしていて部下の名前が思いだせない。「おかしいな、彼の名前はなんて言ったっけ?」と考えてしまう、確かに以前会ったことのある人で顔はわかるのにすぐに名前が出てこない。こんなこと経験ありませんか?

実はこの場合は脳機能として病的な状態ではありません。物忘れで一番心配になる病気は認知症ですが認知症は記憶ができなくなる症状が一番初期に生じることが多いです。今この瞬間に彼の名前は思いだせないのですが、自分が部下の名前を記憶していたこと自体は自覚しているのです。つまりこれは自分の脳の中にはしっかりその部下の名前があるのにその名前という記憶を自分の脳の中から取り出せない状態にあります。

これはその時たまたま自分の都合の良いタイミングで思い出せなかった可能性が高いだけで名前という記憶自体が脱落していたものではないため病的な記憶障害ではありません。おそらくは違うタイミングでは問題なく思いだせることも多いことでしょう。

 

年齢における脳の記憶力

実は結論から言いますと厳密な意味での脳の記憶力が年齢を経るにつれて低下することはないと言われています。しかしそれでも実際には若い頃よりも物覚えが悪くなっていると感じる意見が多いことも事実です。

これは記憶力が低下する原因はそもそも年齢だけのせいではないことを意味しています。ドイツの心理学者のエビングハウスが行った実験では被検者に無意味な言葉を丸暗記させるテストをして年齢における記憶力の差はないことを示しています。

そしてさらに彼は「忘却は覚えた直後に進む」と表現していて、人の記憶は記憶後20分後に42%を忘れ、1時間後には56%を忘れ、1日経つと74%を忘れるとしています。つまりどんな年齢においても人間は忘れっぽい生き物なのです。

では昔と比較して忘れっぽくなったと感じるのはいったい何が原因なのでしょうか。それは主に2つ考えられます。一つは大人になるにつれて復習の機会が少なくなることです。学生時代に記憶力が試される時とはいつでしょうか。それは勉強している時に試されることが多いでしょう。勉強は繰り返し復習をすることでその記憶が定着し、学習した知識として確かなものになっていきます。人間は忘れる生き物ですが復習をしてもう一度覚え直すことで格段に知識の定着率が上がることも証明されています。

しかし社会人になってからは少し時間の流れが違います。膨大な資料や仕事上の手続き、多くの人との交流の中で復習(使い終わった会議の資料にもう一度資料に目を通す)するための機会を与えられることなく容赦なく時間が経過していきます。ある意味で勉強は復習しながら体得し自分のものにしていくのが普通ですが仕事はひたすらこなしていくものである側面をもち、仕事を記憶としてとどめる機会や必要性が少ないためにいざ以前に仕事した内容や関わった人を思いだそうとすると「あれ、何だっけ?」とど忘れしてしまうことが多くなります。

二つ目の理由としては記憶に対する意欲の低下です。記憶力に関しては年齢がすすんでもそれほど低下しないのですが残念ながら意欲や活力といった部分、つまり脳で言うと前頭葉がつかさどっている能力は年を経るにつれて低下してきます。

特に40歳を超えたころからこれは顕著になってきます。その要因の一つは男性ホルモンの減少であると言われています。男性ホルモンは好奇心や気力、攻撃性などと密接に結びついたホルモンでありこれの減少とともに老化による前頭葉の萎縮も加わるとますます意欲の維持が難しくなってきます。そうなると学習に対する意欲も当然のことながら削がれてしまい勉強するための集中力が維持できない原因にもなります。

その結果記憶ができない、物覚えが悪くなったと自覚するようになるのです。つまり意欲の維持には前頭葉の機能維持が必要となってくるわけですが前頭葉の機能を維持するためにはどうしたら良いのでしょうか。前頭葉が最も働くのは「あっ!」と驚いた時です。

つまり想定外の出来事や初めてのことをするときに前頭葉は活性化されます。そのため前頭葉の維持には仕事やプライベートなどで常に何か新しいことができるように興味を持とうと努力していることが大切です。これとは反対に前頭葉が働かない生活とは毎日同じことを繰り返していくパターン化した生活です。これまでの自分の経験に従うだけで何か新しいことを求められたりしない環境の中にいると前頭葉が働く機会は減り、どんなにもともと優秀な人でもいざ新しいことを始める時に創造性や意欲も湧いてこない状態になってしまいます。

さらに意欲低下のもう一つの要因は人生のステージにおける勉強や行動をするための動機をもつ機会の減少です。学生時代であれば受験や就職、働きはじめた新人のころであれば結婚や資格の取得など勉強をするための明確な動機がありましたがいわゆる「オヤジ」と言われる世代になるとこの動機自体も持つ機会が減ってしまいます。逆にこの世代であったとしてもやる気がでるような動機付けができてしまえばその仕事や人間関係に対する記憶ももっと明確なものに成り得るはずなのです。

 

注意が必要な物忘れ

忘れ物

上記でお話したようにほとんどの場合は物忘れと言っても病的なものではなく、年齢や人生のステージに起こる変化と言っても良いかもしれません。しかし中には本当に病的なものも存在します。ここでは放置しておいてはいけない場合を少しご紹介します。仕事の中でついうっかり忘れてしまうことなどは良くあります。スケジュールが多忙であれば約束事すらもあやふやになることもあるものです。

しかし約束したことそのものすら思いだせない、思いだそうとして「ほら、〇曜日に○○さんと○○ビルの会議室で話した時、今日〇時に会おうって約束してたでしょ?」と約束した時の状況をいくつか他の人に説明してもらっても全く記憶にないなど、記憶自体がそっくりそのまま抜けっている状態は注意が必要です。1回ならばまだしもこんなことが最近増えてきて何回も繰り返しているというような場合には病的な記憶障害といえます。

このような症状があった場合、これに加えて仕事の段取りが極端にできなくなっている、目が悪くなったかのように空間の認識ができない(部屋の出入り口がわからない)、以前よりも地図が読めなくなったなど総合的にみて仕事をする上での能力の低下が目立つようになってきている場合には何らかの認知症の可能性があり一度早めに精密検査のできる医療機関への受診をお勧めいたします。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は中年期に増える物忘れに関して解説させていただきました。

この年代の場合普段自覚される物忘れはそのほとんどが病的なものではなく、普段の多忙で情報過多な生活の中で記憶にとどまらない内容が多くなること、そして人生のステージの変化から物事に対する自分自身の取り組み方も変化し学生や若い頃と比較し動機付けした記憶をする機会が減少していることが原因として考えられます。

無理にやる気を出して全てのことを覚える必要などありませんが活力を維持し自分の生活に刺激を当て続けようと努力することは重要です。仕事や約束事、新しく人の名前などは覚える時には今自分がやろうとしていることが自分の人生に実りある将来を提供してくれるものと考え意欲を出して取り組んでみることが大切だと考えます。

この記事の作者

浅野 翔吾【内科医】
浅野 翔吾【内科医】
1978年生まれ。中部地方のとある病院で内科医として勤務医をしつつ、ライター活動をしている。趣味はサイクリング、ランニング。2児の父、子育てをきっかけに医師の働き方に関して真剣に考えるようになる。2017年にそれまでの不眠不休の労働を改め、地方の急性期病院を退職し現在に至る。
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