セイコーという偉大な会社を考える
- 2017/03/21
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セイコー「HUGAKU」の衝撃
昨年の春、バーゼルワールドで発表されたセイコーのニューモデル「HUGAKU」は大きな話題を呼びました。
ダイヤルのモチーフはその名の通り、葛飾北斎の「富嶽三十六景:神奈川沖浪裏」から。
立体彫金とか漆芸とかまあ、実に日本的な技を駆使したデザインは非常に大仰なのですが、そのこと自体は特に驚くべきことではありません。
大きな話題を呼んだ理由は、トゥールビヨンを搭載していたこと。
「遂に、セイコーも……」そんな感慨を、時計オタは持ったことでしょう。
なぜ「遂に、セイコー」なのか?
トゥールビヨンとは、これは言葉で表現するのが非常に難しいのですが、機械式時計が重力の影響を受けて、正確な時間を刻むことが阻まれる事のないように機械自体(キャリッジ)を回転させてしまおうという仕組み。
発明されたのは18世紀ですから、かなり古い仕組みですが、特筆すべきはその複雑性。
トゥールビヨンだけでパーツ数は150を上回るといいますから、そのことが理解できるでしょう。
そして、マニュファクチュールと呼ばれる技術自慢の時計メーカーのほとんどが、トゥールビヨン搭載のモデルを発表している、そんなモデルを発表したセイコー、正に遂になのです。
トゥールビヨンなんぞ必要ないのでは?
しかし考えて見れば、時間が狂うのがイヤならば、トゥールビヨンなんてややこしい仕組みを採用せずに、機械式の時計自体を使わなければいいのです。
正確無比とはクォーツ式の時計のためにある言葉、何も考えずに電池とモーターで動くクォーツの時計を使えばいいだけなのです。
クォーツショックの仕掛け人、セイコー
そして、面白いのは今更ながらトゥールビヨンを発表したセイコーが、世界中にクォーツ式の時計を広めた張本人であること。
モデル名は「アストロン」、現在もGPS時計のブランドとして残る名前。
1969年に発売された初代こそ、大卒の初任給が3万円の時代に45万円もしましたが、その後の大量生産による価格の下がり具合は御存知の通り。
時を刻む正確性、コンパクトな機械、安い価格で機械式のムーヴメントを大きく上回るクォーツの時計はあっという間に普及。
機械式を主に手掛けるスイスの多くのブランドは、倒産もしくは寸前まで追い込まれたのでした。
時計業界にセイコーが与えたこの衝撃を「クォーツショック」と呼びます。
技術力をいまさら喧伝するセイコーの意図とは?
そんなことをやっておいて、今になってトゥールビヨンの時計を発表するセイコーの意図は何なのか?
現在トゥールビヨンの時計を手がけているメーカーは実用性は二の次、これだけ複雑な時計を手掛ける技術がありますよ、ということを誇示するために発表しているに過ぎません。
そして、セイコーが技術力を誇示する必要は今更ないはず。
時計オタならば全員、セイコーの実力は知っています。
複雑時計を製造するのがセイコーのつとめなのか?
恐らくなのですが……そこにあるのは一種の奢りではないでしょうか。
時計オタがありがたがっている、トゥールビヨンなんぞ、すぐにでもできるということの証明。
日本の伝統技術の粋と、贅を凝らした外観、そしてセイコーの高い技術力を集結させたHUGAKUにもかかわらず、伝わってくるものは何もないのです。
まあ、一本5,000万円もする時計ですから、ターゲットは当然私ではありません。
だから、何も伝わらないのは当たり前かもしれませんが、それでも何となく、寂しさを感じるのです。
もっと、多くの人を喜ばせ、世界を変えるインパクトを持つ何かを、セイコーには期待したいものです。