日本人が同性愛を否定するなんておかしいのである

  • 2018/08/07
  • ライフスタイル・娯楽
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  • 八神千鈴
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性的マイノリティーは「生産性がない」で大炎上

性的マイノリティーは「生産性がない」で大炎上
7月18日発売の雑誌『新潮45』に掲載された、自民党の杉田水脈議員の寄稿が発売直後から炎上騒動を起こしています。炎上の対象となったのは、「性的マイノリティーの人々は生産性がないので税金を使って支援する必要はない」という趣旨の内容。
日本は憲法ですべての国民に人権を認めている以上、特定の人々を切り捨てるような発言は政治家として問題があると見られてもしかたがないでしょう。

杉田議員はこの文中で、「日本において性的マイノリティーの人々はそんなに差別されているのか」と疑問を呈し、日本では同性愛を否定するキリスト教国のような迫害は行われていないと述べています。そして、むしろ歴史的には同性愛に寛容だったと理論を展開し、現代日本でも同様だと結論づけました。

しかし残念ながら、現代日本に性的マイノリティーへの差別は存在します。同性愛者であることのカミングアウトはいまだにとても勇気が必要で、不用意に暴露された人が自殺することもあります。また同性婚が法律で認められていない事実は、国から差別されているともいえるでしょう。
しかし日本が同性愛を否定するようになったのは、明治維新以降の近代から。歴史的には長らく同性愛を受け入れる社会でした。

 

かつての日本では同性愛は日常風景だった

かつての日本では同性愛は日常風景だった
日本の同性愛文化では、戦国時代の大名が側近の家臣と男色関係を持つ衆道が代表的です。ただし、衆道は単なる性的なつながりではありません。大名は将来的に軍略や政治を任せたいと思える有望な若者を選んで、武芸や学問の特別レッスンを行います。
そのエリート教育の一環として性的な関係を持ち、信頼を強めたのです。織田信長の衆道相手と伝わる森蘭丸は、本能寺の変で信長が奇襲された際、最後までともに戦ったといわれます。
同性愛は僧侶の間でもありました。特に室町時代には僧侶とその世話係である稚児が愛を交わすことが多くあり、これをモチーフとした「稚児物語」という物語のジャンルが成立したほどです。

男性と比べると女性の記録はあまり多く伝わっていないため、女性の同性愛は詳しいことがわかっていませんが、平安時代から社会的に認められていたとする研究もあります。
江戸時代には葛飾北斎や歌川国麿などの浮世絵師が女性の同性愛の春画を発表しており、多くの人に受け入れられていたようです。

このように同性愛が日常的だった社会を、一変させたのが明治維新でした。明治維新とは日本が諸外国と肩を並べられる国家になるための近代化を目ざした革命なので、どうしても西洋的な考え方をスタンダードにする必要がありました。この結果、キリスト教的な同性愛否定が日本でも主流になったのです。

 

差別や偏見を捨てて誰も排除されない社会へ

差別や偏見を捨てて誰も排除されない社会へ
つまり、日本人が同性愛に対して否定的になったのは近代に入ってからのごく最近。それまでは同性愛も異性愛も同等にたしなまれていました。日本人のDNAにしたがうなら、性的マイノリティーを特別視することがそもそもナンセンスなのです。
同性カップルが子どもを産めないのは事実ですが、それだけで「生産性がない」と切り捨てるのは早計でしょう。たとえば親を失っていたり親に虐待されていたりする子どもを、同性カップルが引き取って育てることはできるのです。

タレントのはるな愛さんは今回の生産性発言について、「産める産めないよりも産んだあとのサポートをどうするのかをもっと考えたほうがいい」という見解を示しています。産まれてきた子どもが虐待や貧困で亡くなる悲劇を減らすことは、出生率を上げることと同じくらいに大切なこと。同性カップルはその受け皿になれる可能性を持っています。
ただし現状の日本では、同性カップルに育てられた子どもがそのことでいじめられるかもしれません。やはり性的マイノリティーへの差別や偏見をなくすことが重要です。

また生産性で人の価値をはかることは、寝たきりのお年寄りや重い障害を持つ人への差別という別の問題にもつながります。はるなさんの「世の中、誰も排除してほしくない」という言葉のとおり、すべての人が平等に人権を認められる社会が実現してほしいですね。

この記事の作者

八神千鈴
八神千鈴
編集プロダクション、出版社の編集者を経てフリーライター。現在は歴史系記事をメインに執筆。それ以前はアニメ、コスメ、エンタメ、占いなどのメディアに携わってきました。歴史はわかりづらいと思っている方にもわかりやすく、歴史のおもしろさをお伝えしたいです。
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