昔の病気とあなどってはいけない「隠れ脚気」に要注意

  • 2019/03/07
  • ライフスタイル・娯楽
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  • 八神千鈴
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かつては誰もが恐れた病気・脚気

かつては誰もが恐れた病気・脚気
「脚気(かっけ)」という病気をご存知でしょうか。日本では江戸時代前期の元禄期頃から全国で流行し、江戸では「江戸患い」、大坂では「大坂腫れ」と呼ばれてとても恐れられた病気です。

主な症状は全身倦怠感、食欲不振、足のむくみなどですが、進行すると心臓と脳にも深刻な症状が現れます。心臓に出る脚気心という症状は動悸や息切れを起こし、心不全にいたることもあります。そして脳に出るウェルニッケ脳症という症状は意識障害を起こし、錯乱状態に陥ることもあります。

脚気というと膝の下を木やゴムのハンマーで軽く叩いて、足が無意識に跳ね上がるかをチェックする検査を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。これは「膝蓋腱(しつがいけん)反射」の検査です。脚気が進行するとこの膝蓋腱反射がなくなって足が跳ね上がらなくなるため、脚気の診断に使われていました。

脚気の適切な治療法は昭和30年代に確立したので、脚気はあまり恐ろしい病気ではなくなり、健康診断で膝蓋腱反射の検査をすることも減りました。しかし近年になって、いつの間にか脚気にかかってしまっている「隠れ脚気」患者が増えているといいます。

 

現代によみがえる「隠れ脚気」

すでに治療法が確立した昔の病気であるはずの脚気に、なぜかかってしまうのでしょうか。それは脚気が発症する原因を追うとわかってきます。
脚気の原因はビタミンB1の不足です。ビタミンB1は糖質をエネルギーに変える役割を持つため、不足すると疲れやすくなり、最終的には糖質を使って活動している脳にまで症状が及びます。ビタミンB1を多く含む食品には玄米、麦、豚肉、うなぎなどがあります。

江戸時代に脚気患者が急速に増えたわけは、白米が普及したからです。なぜ、ビタミンB1を多く含む食品に玄米があるのに、同じ米でも白米ではだめなのでしょうか。実はビタミンB1は玄米の糠部分に豊富に含まれているため、精米して糠を取ってしまった白米にはほとんど残っていないのです。当時の人々がそんな真相を知るはずもなく、ビタミンB1を投与する治療法が始まるまで脚気の猛威はおさまりませんでした。

一方の隠れ脚気の主な原因は、糖質の取りすぎによるビタミンB1の減少です。糖質が多ければ多いほど、ビタミンB1はそれをエネルギーに変えようとして消費されてしまうのです。またビタミンB1は水に溶けやすい水溶性ビタミンなので、水分をとりすぎると尿からどんどん排出されてしまいます。つまり糖質の多いアルコール飲料や清涼飲料水をよく飲む習慣がある人は、隠れ脚気になりやすいのです。
また、仕事をバリバリこなす人や激しいトレーニングを行う人もエネルギー消費が増えてビタミンB1が不足しがちです。何事も節度を保って、ほどほどに頑張りましょう。

 

「隠れ脚気」にならないために

忙しくて食生活が乱れやすい現代人は、誰もが隠れ脚気になる可能性を持っているといえます。昔の病気と甘く見ないで、疲れやだるさが続くようなら脚気を疑いましょう。特に水分を失いやすい夏場は隠れ脚気になりやすいですが、疲れやすさや食欲不振などの症状が夏バテとよく似ているので注意が必要です。

水溶性のビタミンB1は、常に補充することが大切。とはいえ玄米や麦はあまりなじみがない方も多いですよね。現代ならやはり、豚肉から摂取するのが手頃でしょう。
江戸幕府の13代将軍・徳川家定と14代将軍・徳川家茂(いえもち)の死因はともに重症化した脚気という説があります。家定と家茂はどちらも甘党だったと伝わっており、家定は享年35、家茂は享年21とどちらも短命でした。これに対して15代将軍・徳川慶喜は、享年77の長寿を全うしています。実は慶喜の好物は豚肉で、将軍を継ぐ以前の名字である「一橋」から取った「豚一」というあだ名があるほどでした。慶喜が脚気にかからず長生きできたのは、豚肉からたくさんのビタミンB1を得ていたからかもしれません。

もちろん糖質も元気に活動するために欠かせない栄養素ですが、取りすぎには気をつけたいですね。

※諸説ございます。

この記事の作者

八神千鈴
八神千鈴
編集プロダクション、出版社の編集者を経てフリーライター。現在は歴史系記事をメインに執筆。それ以前はアニメ、コスメ、エンタメ、占いなどのメディアに携わってきました。歴史はわかりづらいと思っている方にもわかりやすく、歴史のおもしろさをお伝えしたいです。
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