せっかく検査したのに…重大な病気の見落としが増加中

  • 2019/01/04
  • ヘルスケア
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  • 八神千鈴
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せっかく検査したのに…がんの見落としが増加中

大病院でも起きているがんの見落とし

ちょっとした不調で病院に行っただけなのにやたらと検査を勧められること、よくありますよね。そして受けてみても、たいていは異常なし。それでも「異常がなかったならよしとするか」と、ひとまず納得する方も多いでしょう。しかし、本当は異常ありなのに見落とされていたとしたら……しかもそれががんだったとしたら、大変なショックですよね。実は近年、このような事態が現実に相次いでいます。

2018年には大学病院や県立のがんセンターなど、社会的に信用されている医療機関からも過去にがんを見落とした事実が報告されました。これらのケースは検査機器の不調などによるものではなく、実際にはレントゲンやCTの画像にがんが映っていたにもかかわらず、異常なしとしてしまった医療ミスです。このミスでがんが放置され、かなり進行してから判明した患者の中には、見落としとの因果関係は不明ながら亡くなった人もいます。

せっかく検査したのにがんを見落とされて、手遅れになってしまう――なぜ、そんな事態が起きるのでしょうか。

 

最大の原因は専門医不足

現在の日本の医療制度における外来診療は、検査をすればするほどもうかるという単純な構造になっています。病院が検査をやたらと勧める理由のひとつはここにあるのです。このため日本は世界的に見ても検査大国となっており、たとえばCT保有数は人口100万人あたり約107台で、先進7か国のG7平均である約25台と比較すると桁違いに多いことがわかります。しかも検査機器は高額なので、経営側からすればなるべく稼働させたいと考えるのは当然ですよね。

さらに技術大国日本では検査機器の高性能化が急速に進んでおり、現在のCT検査は5秒に200枚もの画像が撮影できます。つまり、身近な医療機関で高度な検査を受けられる恵まれた環境といえるのですが、実はこれが落とし穴。医療現場は、大量の検査で生み出された大量の画像が診断しきれない事態に陥っているのです。

通常、検査画像の診断は「放射線診断医」という専門の医師が行います。放射線診断医は画像に映った影で病変を見抜くことから、「読影医」とも呼ばれます。この放射線診断医の人数が急激な検査画像の増加に追いついていないため、画像1件にかけられる時間が限られてしまうのです。CTの台数こそ多い日本ですが、放射線診断医の人数は世界的に見ても少なく、人手不足とわかっているところへ容赦なく仕事を増やすブラック企業のような状態になっているといえるでしょう。

また、放射線診断医ががんを発見しても主治医に直接伝達するルートがなく、放置されてしまうケースもあります。大きな病院ほど分業制になっているため、情報伝達のシステム構築には力を入れてほしいですね。

 

正確な読影のための取り組みがはじまっている

放射線診断医が不足しているなら増やせばいいわけですが、医師である以上は医学部を卒業して医師免許を取得し、研修も修了しなければ現場に出られません。育成にはとても時間がかかるため、簡単には増やせないのです。

そこで現在、人工知能による診断技術の開発が進められています。人工知能にがんの形状を記憶させて、大量の画像の中から一致するものを発見させるというシステムです。これが実用化されれば放射線診断医の負担が軽減され、がんの見落としがなくなることで患者も早期のうちに治療が受けられるようになるでしょう。

しかし、人工知能による診断はデータにないがんをスルーしたり、特定のメーカーや機種に限定されたりという問題もあるため、最終的には人間のチェックが不可欠です。そこで、育児などのために一度離職した放射線診断医を活用する取り組みもはじまっています。フルタイムで勤務できない放射線診断医のために、在宅や交通の便がいい場所の画像診断センターなどで無理なく読影してもらうのです。

せっかく時間とお金をかけて検査してもがんを見落とされてしまうのでは、受けても無意味ですよね。このような取り組みが実を結んで、有意義な検査が行われることを期待しましょう。

この記事の作者

八神千鈴
八神千鈴
編集プロダクション、出版社の編集者を経てフリーライター。現在は歴史系記事をメインに執筆。それ以前はアニメ、コスメ、エンタメ、占いなどのメディアに携わってきました。歴史はわかりづらいと思っている方にもわかりやすく、歴史のおもしろさをお伝えしたいです。
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