宮沢賢治が作った「電気ブドウ酒」という謎の酒
- 2016/09/05
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創作カクテルなど酒の研究に熱中した賢治先生
「銀河鉄道の夜」の作家・宮沢賢治が花巻の農学校の教員でもあったことは、たいていの人が知っているでしょう。当時の教員一般とはまるで違う個性的な授業は生徒たちに強い印象を与えたらしく、老人になっても忘れられないという声が、教え子たちからたくさん聞かれました。
しかし、化学を受け持っていた彼が、授業のかたわら、創作カクテルなど酒の研究に打ちこんでいたというのは、あまり広くは知られていません。
黒豆の煮汁をベースにした摩訶不思議な酒
賢治先生が「創作」したものの1つに、「電気ブドウ酒」なるものがあります。
どういうものかというと、資料によれば、こんな摩訶不思議な製法でつくられたことが記録として残っています。――黒豆の煮汁をベースに、酒石酸、クエン酸、砂糖、ハチミツを混ぜたもの。
これだけではいくら想像をたくましくしたところで何も思い浮かびませんが、一説によると、アルコール入りのお汁粉のようなものだと言われます。
「電気」とは、「最先端」の意味なり
注目したいのは、「電気ブドウ酒」という名前です。
「電気」と付いていますが、賢治先生は化学の専門家であって、電流を何かの目的で使用したということはありません。
では、なぜ「電気」なのでしょうか。
「電気」は、明治〜大正時代の最先端の技術でした。つまりは、電気=最先端の意味。賢治先生は「最先端のブドウ酒」だという意味で「電気ブドウ酒」と名づけたのです。
賢治先生が目標としたのは「電気ブラン」
日本の酒の歴史に詳しい人なら、ここで察しがつくでしょう。賢治先生と頭の中には、はっきりと目標でありライバルとなるものがありました。「電気ブラン」です。
いまでは東京の下町以外ではあまり飲まれなくなりましたが、電気ブランは東京浅草にいまもある「神谷バー」の経営元、神谷酒造が明治の世に作った新種のカクテルです。「ブラン」はブランデーのことで、ブランデーをベースに、ワインやキュラソー、ハーブなどをブレンドして作られているといわれます。ただし、本当のところは、いまも企業秘密。
「電気ブラン」なら、いまだって飲めます
電気ブランは、いまも神谷バーへ行けば飲めますし、ボトル詰めしたものも売られています。昔、あがた森魚はこの酒を「3杯飲んだらあの世行き」と歌いましたが、そんなことはありません。口当たりのいい、優しい酒です。
浅草まで出かける機会があったら、ぜひお試しを。