通勤前になると腹痛!仕事に行きたくない!そんな時はこんな病気かも!!【内科医アドバイス】

  • 2019/06/04
  • ヘルスケア
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  • 浅野 翔吾【内科医】
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そんな時はこんな病気を疑え!
今回は腹痛に関する話題です。中でも特に仕事の前もしくは何かしら少し緊張するような場面などを前にすると決まってお腹が痛くなる現象に関してお話したいと思います。

皆さんはこんな経験はありませんか?朝食も食べて、出勤する支度も整えた。今日は大切な会議があるから失敗しないようにしっかりやらなければと気合いを入れて自宅を出ようとしたときに何やらお腹に変な感覚。。。。

そのうちゴロゴロとお腹が音を立てたかと思うとその後くらいから急激に腹痛を感じ、冷や汗が額ににじむ。少し我慢しているとさらにそこに便意を催して慌ててトイレへ駆け込む。これによって少し早めに自宅を出ようとしていた予定は見事に崩れて、むしろいつもよりも遅刻気味に。自宅を出ようとしたところまではそんな予兆など全くなかったのに。。。。

思えば学生時代から試験前などになると決まって腹痛でトイレに駆け込むことがあったような。ひどい時は単純に学校へ行く前や映画館で映画が始まる前、そして入学式や卒業式、恋人とのデートの前や友人や自分の結婚式の直前でさえ1日のうちでも少し緊張するような時間になるとほとんどと言ってよいほど腹痛を起こしていたような気がする。

 

いったいあれは何なのだろうか?

ずばりこれは過敏性腸症候群と呼ばれる一つの典型的な症状です。今回はこの過敏性腸症候群に関してその特性や他に考えなければいけない疾患なども含め解説させていただきます。

 

過敏性腸症候群について

多くは命に関わる症状ではないのですが予期し得ない突然に起こる腹痛や下痢、腹部の不快感などにより生活の質が著しく低下している状態を過敏性腸症候群と言います。実は20~40歳代に多く認められるとされていて特に先進国に多く、この年齢層では全体の10~15%の方が日常生活に支障をきたす何らかの症状を有するとされています。

女性が便秘がちなことが多いのに対して男性の場合は腹痛に加えて下痢症状を呈することが多いです。30~40代の働き盛りのオヤジ世代はまさにこの症状に悩むことが多いと言っても良いでしょう。

それでは我々オヤジ世代が悩む下痢型過敏性腸症候群ですがお腹の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。この疾患にかかると大腸の自然な動きが障害されてしまいます。

大腸の蠕動運動(腸内の内容物を後ろの腸管に送り出す大腸全体の連続した動きのこと)が何らかの要因で急に過剰になることでまだこれから体内に吸収されるはずであった水分などが不十分に残ったまま大腸内、さらには肛門に近い直腸内へ押し出されてしまいます。その結果もう少し時間をかければ固くなるはずであった便が下痢っぽいまま排泄するタイミングを迎えてしまうのです。

 

大腸の動きについて

大腸の動きについて
まず人間の消化管には口側から順番に食道、胃、十二指腸、小腸、大腸があることはご存知かと思います。そして今回の腹痛に関連した臓器はこの中でも大腸が要因となっています。人間の場合食べたものは24~72時間程度で便として排泄されていきます。そして大腸では平均的にみて約10時間ほど食べたものが滞在しています。

その間に中に含まれている水分のほとんどは大腸から吸収されていき、消化されなかった食物の繊維質が固められて便となります。さらに大腸の一つ手前の臓器は小腸であり、この小腸の中で良く食べ物が消化酵素と混ぜ合わさり、細かい物質に分解されていきます。この現象を消化といいます。小腸や大腸は蠕動運動(ぜんどううんどう)という肛門の側に内容物を送り込むための非常にスムーズでなめらかな動きをします。

この蠕動運動があまりに強すぎると水分が吸収される前段階で肛門付近まで便がたどり着いてしまい、本人としては強い急激な便意を催します。トイレに入った段階では十分に水分が大腸から吸収しきれていない内容物が排泄されるため結果として下痢症状が認められるわけです。逆にこの蠕動運動が弱いとなかなか大腸内を便が移動し肛門まで到達できないため便秘となってしまいます。

 

交感神経と副交感神経

ではなぜそのような蠕動運動が強まるようなことが起こるのでしょうか。それは腸管の動きが自律神経と呼ばれる神経の支配を受けていることに起因しています。自律神経はわれわれが意識しなくても身体の状態をよりよく維持するために自動的に昼夜を問わず働いている非常に高度な神経のことです。

さらに自律神経は緊張した時に活発に働く交感神経とリラックスした時に働く副交感神経に区別され、その両方がちょうど良く腸管に作用して健全な排泄機能を担っています。そのため交感神経が働きすぎる(副交感神経の働きが弱すぎる)と腸管の蠕動運動がバランス良く行えなくなってしまいます。

つまり腸管の健全な蠕動運動には副交感神経の働きが不可欠なのです。そしてわれわれ30~40代の男性は特にこの年代に入ると副交感神経の働きが低下する傾向にあり、真っ先にその影響を受けるのは自律神経が体内で最も多く分布しているとされる腸管ということになります。したがって今回のような通勤前や何かしらの催し物の前になると発生する腹痛を防ぐには低下しつつある副交感神経の働きを改善する必要があるわけです。

そのため仕事や子育てで日々のんびりするような休暇を取りにくいわれわれオッサン世代こそ十分にリラックスできる時間を取り副交感神経の活動性を高めることが必要なのかもしれません。

 

過敏性腸症候群と決めつける前に

過敏性腸症候群と決めつける前に
これまでの流れを読んでくると「あー、自分も過敏性腸症候群なんだろうな。。。」と症状がしっかり当てはまってしまう方もおられるでしょう。しかしそう決めつける前にしっかり除外しておかなければならない疾患があります。過敏性腸症候群はそもそも症状の名前であって正確には病気そのもの名前ではないのです。

つまりなんらかの腸に関連した疾患にかかっていて同じような症状がでていることも十分にあり得ます。その中でも代表的なものは大腸がんと大腸炎です。どちらも大腸内視鏡検査によってその有無をはっきりさせることができます。内視鏡によって疑わしい部分の細胞を採取し調べることで炎症の存在やがん細胞の存在が証明されれば、それは単なる過敏性腸症候群ではありません。

そして、これらの疾患であった場合には腹痛や下痢症状の他にも血便や発熱、体重減少など他の症状もみられることがあるので心当たりのある方は一度検査を受けられた方が良いでしょう。さらに似たような症状を引き起こす疾患は大腸の病気だけではありません。実は甲状腺の機能異常そして糖尿病、寄生虫への感染などでもあたかも過敏性腸症候群と似たような症状を引きおこすこともあります。そのため「自分はたぶん過敏性腸症候群なんだな。」とこの記事を読んでいただいて思ったとしても安易にリラックスする時間を増やすだけだなどと考えずに一度消化器科を専門とする医療機関への受診を考えても良いでしょう。

具体的には医療機関へ受診すると医師の診察の後に血液検査と大腸内視鏡検査を実施し必要があれば腹部のCT撮影なども追加することもあります。これらを除外した上で副交感神経の働きを取り戻すための生活改善を行うことをお勧めいたします。

 

まとめ

いかがでしいたでしょうか?今回は通勤前にわれわれを悩ます過敏性腸症候群に関して解説させていただきました。出勤前や会議の前など重要な局面になると急な腹痛と便意を催すことは職場で即戦力として働く我々オッサン世代にとっては大きな弊害となります。とは言え過敏性腸症候群を改善するために特効薬が存在するわけではありません。

ある程度の腸管の運動を調整したりするくらいのお薬はありますが時間ごとに腸の運動が変化する過敏性腸症候群には効果が乏しいことも多いです。そのため症状を改善するには日常生活の改善、つまりは副交感神経の機能を改善すべく自分がリラックスし落ち着いた生活ができるようにする環境整備が最も大切なのです。そして症状の完治には相当な時間と根気がいるため、ゆっくりと焦らずに取り組んでいくようにしましょう。

この記事の作者

浅野 翔吾【内科医】
浅野 翔吾【内科医】
1978年生まれ。中部地方のとある病院で内科医として勤務医をしつつ、ライター活動をしている。趣味はサイクリング、ランニング。2児の父、子育てをきっかけに医師の働き方に関して真剣に考えるようになる。2017年にそれまでの不眠不休の労働を改め、地方の急性期病院を退職し現在に至る。
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