テスラというメーカーのどこがスゴかったのか(過去形?)

このところ次々と不安材料噴出中で

アメリカのEV専業自動車メーカーであるテスラ社が、いま大きく揺れ動いている。

量産体制の不備、資金繰りショートの可能性、カリフォルニアでの死亡事故に対する調査結果、そしてモデルSのリコール…。
次々と湧く黒い噂、巻き起こるアクシデントに、並みの神経じゃとても対応しきれないところだが、あの男にとってはすべてが「エキサイティングな成功への過程」でしかないとでも言うのだろうか。

そして本当に量産モデル「テスラ3」が、我々日本の道路をフツーに走る日はいつかやってくるのだろうか。

 

業界にデッカい風穴をあけた功績は大

自動車の未来像についてはさまざまなコンセプトがあり、また各メーカーが何を得意とするかで「あっち寄り」「こっち寄り」の姿になるのは仕方のないことだ。

たとえばエンジンを自前で作れるなら動力機関で最先端を行く、官能的な線が引けるデザイナーを擁するならそのデザインで新提案をする、IT企業と組むならIoTに特化した機能性で勝負する…、いろいろ切り口はあるが、テスラの魅力はそういう垣根をいっさい取っ払った先にある。

つまり、クルマ作りをゼロから始めたから強みもないが、ヘンなプライドもしがらみもない。
ただ「オレが欲しい未来のクルマ」を作れば買ってくれる人が必ずいるはずだ、という強い信念(しばしばクレイジーと評される)、そして驚異的なスピードでここまで走ってみせたカリスマ統率力(経営手腕)を両輪として、実際に形にしてみせた。

人が乗る最新式の未来クルマでも、10年あれば一から作れるという、天地がひっくり返るレベルの大仕事をしたのである。

 

投資家はイーロン・マスクにまんまと踊らされたのか

その先頭に立ったのが、CEOのイーロン・マスク氏というお方。
彼は、もともと金持ちで、裕福な家の生まれだったか?
いや、そうではない。
確かに彼も、最初に起業した会社が買収されるなどして「元手」クラスの資金は手にしていた。
しかし、のちにテスラやスペースXを動かすには到底及ばない。

彼の本当の実力は「金を集めてみせる」卓越した手腕、イメージ戦略にあった。

彼が語る構想は、いつでも、どの企業に属していたときも、現実離れしていた。
時速約800マイルの輸送機関、人類を火星に送り込む計画、誰もが買える電気自動車を量産する…そのひとつひとつはとても夢物語にしか聞こえなかったが、それがいくつか集まると、そして別会社のプロジェクトがたとえ一歩でも進むと、
「あれができたならロケット打ち上がるかも」
「ロケット打ち上がったらEVもホントに買えるかも」
と、まるであっちもこっちも成功するかのような雪崩式に、投資家を引きつける結果となった。

いまテスラの財務を見れば、だれもが「自動車」ならぬ「自転車操業」だということはよくわかる。
が、投資家というものは、たいてい「下りるのがヘタ」だ。
自分が一度信じたものは「浪花節(アメリカ人も?)」で初志貫徹してみたいし、またイーロンの夢はそれにふさわしいくらいデカかったからだ。

 

でもアメリカン・ドリームってこういうことじゃね?

イーロン・マスク氏は南アフリカの出身で、のちにカナダ、アメリカへと移住してきた人だ。
こういう人がアメリカへ来て一発何かやろうとし、そして実際デッカい花火を打ち上げてみせた。
昔は彼のことをすぐにこう呼んだだろうが、今となっては死語になりつつある「アメリカン・ドリーム」それもほぼ「ザ・ラスト・アメリカン・ドリーム」の主人公が彼そのものだ。

いいことも悪いことも織り込みながら、その功績は、いずれ後世が評価するだろう。
ただ今は、ひとりの移住起業家が大きく育てた「テスラ」という名前が、クルマ史の真ん中にドデカい風穴を開けて成功するのか、それともドデカいクレーターを残して燃え尽きるのか、市場は今日も固唾を呑んで見守っている。

この記事の作者

のりき 夢丸